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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 1日限定小説下げました。まだ4月1日ですが、今日は流石に寝ようかと……


 赤×緑&看守
 こっちもエイプリルフール。



 本文は『続き』からどうぞ。



 今日のカンシュコフさんは、何か機嫌が良いみたいだ。

 プーチンは覗き窓から見せたブラウンの瞳がどことなく楽しげなのを見てそう感じた。

 「カンシュコフさん、何か良い事があったんですか?」

 プーチンが尋ねると「別に何もねぇよ」とにべにもなく答えるが、その声が弾んでいるようにすら聞こえる。
 内緒ごとの楽しい事があったのかな―――どんな事なのか気にはなったが、普段眉を顰めてばかりいるカンシュコフの嬉しそうな様子に、プーチンは我が身の事のように良かったと喜んだ。

 季節は春。外に未だ雪は残っているようだが暖かくなってきた日差しに誘われるよう、皆幸せを感じられれば良い。

 他者と隔離された監獄の中にあっても、プーチンは誰かの幸せを思って喜び、笑った。

 ほわほわと二人、扉を挟んで笑いあいながら本日の食事が配膳される。
 常ならぶっきらぼうに扉下のポストから粗末な食事を差し出されるだけなのだが、今日は違った。

 「喜べ模範囚、今日の飯はご馳走だ!」

 端のかけた皿を高々と翳して叫ぶンシュコフの言葉に、プーチンが目を輝かす。

 「ごちそう!?うわー、本当ですか!」

 ただ飯が食べられるのが囚人の特権だが、その量や質は流石に成人男性の胃袋を満足させるとは言いがたい。
 好き嫌いなくきちんと出された物に感謝して食すプーチンだから文句はないものの、刑務所に入っている大多数がその食事内容に不服を抱いている。当然そんな囚人のわがままを聞いてやるほど、刑務所の管理側はお人よしの集まりではない。
 何とか毎日の飢えを凌ぐ程度の食生活で、ご馳走とはとんと縁遠いものになっていた。
 何が出るか分からないが、想像するだけで涎が出てきそうだ。

 聖誕祭などの特別な行事があるわけでもないのに何故だろう―――そんな当たり前の疑問も抱くことなく「どんなごちそうですかっ?」と勢い込んで尋ねるプーチンに、カンシュコフが重々しく告げた。

 「本日のメインは、数種のスパイスと赤ワイン、トマトに漬けこんでローストしたもち豚ロース肉―無農薬かぶらのソテーと人参を添えて―」
 「むほーっ!なんだか分からないけど美味しそうな名前!」

 やたら長い料理名にプーチンのテンションが条件反射で上がる。
 わくわくと扉の前で期待に胸躍らせる模範囚に、カンシュコフはにやりと笑って皿を出した。

 「残さず食えよー」
 「はーいっ!ごっちそうごっちそう~!……ほ?」

 ホカホカと湯気をたてるきらびやかなご馳走を想像していた頭が、白い皿を見た瞬間思考を止めた。
 目の前の料理に、カンシュコフの告げていたご馳走の名前を懸命に思い出す。

 塩コショウ少々トマトスープに浸してスライスした脂身―かぶとにんじんの葉っぱを添えて―、だったろうか。

 どこか違うような気がする、と思うのだが、皿の上に乗ったものを順に示していくとそんな名前になってしまう。
 疑問符を一杯浮かべて皿を凝視するプーチンに、扉の向こうから爆笑が聞こえた。
 背伸びして覗き窓から目を出すと、蹲ったカンシュコフが腹を抱えて笑っている。堪えきれないのかバンバン廊下を叩きながら大声で笑うため、他の房の囚人達もなんだなんだと覗き窓から顔を出す始末だ。

 漸く一頻り笑い終えたのか、呼吸を整えながらカンシュコフは身を起こす。目じりの涙を拭いながら笑いの余韻を引きずっている彼に、プーチンはすっかり冷めてしまっている皿を差し出して首を傾げた。

 「カンシュコフさん、これってごちそう、なんですか?」

 自分が贅沢になっているだけなのだろうか―――謙虚にもそう思いつつ尋ねるプーチンに、カンシュコフは「それがご馳走なら犬の餌だって高級ホテルのディナーだな」と鼻で笑った。
 その発言からするに、どうやらこの皿のものはご馳走ではないらしい。しかし、彼は渡す際にご馳走と言っていたではないか。この矛盾はどういう事なのだろう。

 ますます分からないといった顔をしているプーチンを、ブラウンの目が呆れ半分に見やった。

 「しらける奴だな。今日はそういう日なんだからいいんだよ」
 「え。今日って何かありましたっけ?」
 「ばーか。お前カレンダーつけてるんだろ。今日は何月何日だ」

 言われて、改めてプーチンはベッドの上にかけているカレンダーを振り返る。今日は丁度、起きた時先月の分のカレンダーを剥いだばかりだ。
 出所までの日にちを記録すべく、日付の上につけている印も今はまだついていない。

 本日は4月の初めの日―――そこまで思ってから、プーチンの口が「あっ!」と納得の形に開いた。

 「今日、エイプリルフールだったんですね!」
 「やっと気づいたか天然。正真正銘4月馬鹿だな」
 「うぅぅー……ごちそう楽しみだったのに……」

 馬鹿と言われたことより、ご馳走が夢の彼方に消えてしまったことに消沈してしまう。がっくりと肩を落とすプーチンに流石に決まり悪くなったのか、カンシュコフはごそごそとポケットを漁って中に入っていたものを覗き窓から放り込んだ。
 投げ込まれたものが、コツッとプーチンの脳天にぶつかる。「にゃっ!」と頭を押さえたプーチンは、足元にころころと転がる飴玉を見つけた。

 「ま、そいつで我慢しとけ」
 「わわっ、カンシュコフさんありがとうございま―――」
 「ちなみに、それ毒が塗ってるから気をつけろよ」
 「むほぉーーーっ!?」
 「……そろそろ学習しろって、お前」

 拾った飴玉を放って青い顔をするプーチンに、出所した後無事外で生きていけるのか本心から心配になってしまったカンシュコフだった。

 

 ご馳走もどきとデザートの飴を手に入れ、安くも上機嫌になっているプーチンはいつもどおり同室の相手の足元へ皿を運んだ。
 プーチンがカンシュコフと愉快な春の劇場を繰り広げている間も、その意識は欠片も逸れることなく愛読の雑誌に向いていた。
 今月号は新作スニーカーの発売予告特集がくまれているらしい。無感動な赤い瞳がどこか熱を持って記事を読んでいるのを見て、本当にスニーカーが好きなんだなぁとプーチンはしみじみ思う。

 いつもは憧れる位に冷静沈着で物静かで頭だって良さそうなのに、スニーカーのことが絡むと人格が変わる。それを良い方向と取るか悪い方向と取るかは人によるのだろうが、少なくとも靴は無気力な彼をこの世で確実に熱くさせる対象ではあった。


 だとすれば、今日唯一通じそうな話題のこれを選ばない手はない。


 若干の緊張といたずらをする高揚とで顔を高潮させながら、プーチンは彼を呼んだ。

 「キレネンコさん、知ってますか?」
 「…………」

 秘密の相談でもするように潜められた声へ、赤い瞳が気のない視線を僅かに寄越す。その目がほとんど雑誌から上がらないことに、何がなんでも成功させてみねばと変な対抗意識が燃え上った。
 ネタの用意は出来た。後はどれだけうまく、真実味溢れた演技が出来るか、だ。
 真面目で正直な性格をしているため、演技は得意ではない。落ち着いて、動揺をみせずに―――普段の彼のポーカーフェイスを真似て、なるべく平坦な声で続けた。

 「その特集のスニーカー、発売日変わったらしいですよ」
 「…………」
 「カンシュコフさんたちが言ってました。もう、街では販売してるんですって」
 「!」

 息を飲むような気配。ついで雑誌を持っていた手が、光速でページを捲る。
 プーチンの言葉の真偽を調べるべく、すでに目を通した特集ページをもう一度、それこそ穴が開くほど読み直す。
 仮にすでに販売されているなら即行で入手しなければ―――現物調達をしてくるのは勿論刑務所から出られない彼ではなく、力ずくで従わせた看守達だ―――そんな気迫が満ち溢れている。

 どこだ。どこに、そんなイレギュラーな情報が載っている。

 真剣な目で雑誌を睨むキレネンコの、予想以上の反応に騙そうとしていたプーチンの方が驚いてしまう。

 鬼気迫る勢いの彼に「ひょっとして、やりすぎちゃったかも……?」と些か臆してしまう。いくら今日が特別嘘を許される、ユーモアに満ちた日であっても相手がそれを許してくれるかどうかは別である。
 もくろみうまく成功した事の歓喜よりも、取り返しのつかない事をしてしまったかもしれないという慄きが今更ながら浮いた。
 とりあえず、素直にドッキリでしたと伝えよう―――当初の目的とは180度反転したプーチンが口を開いた。

 「あ、あのですね。キレネンコさん。今日は4月1日なんです」
 「…………」
 「エイプリルフールなんですよね、今日。僕もさっき、カンシュコフさんに騙されちゃって。あはは……えーっと、その」

 嘘ついて、ごめんなさい。

 ぺこり、と頭を下げるプーチンに、雑誌を捲っていた手が止まる。
 記事を検索していた瞳が、ゆるりと傍らで向けられているちょんまげ頭を見た。

 成程、今日は世間一般ではエイプリルフールとかいう、一体どういう意味があるのか分からないけれど何故か根付いている奇怪な風習の日だった。という事は、先程の販売日が変わった云々は先程謝った通り、嘘なのだろう。分かってしまえば、大したことのない内容だ。

 騙そうとした行為が気に障らないではないが、ふとキレネンコは考え直す。

 今日はエイプリルフールだ。何のためにあるのか分からないが、隣人を非常に寛容に受け入れるよう暗黙に了解している日なのだ。

 ふむ、と一つ頷いてから、彼は雑誌を閉じた。


 パタン、と耳に聞こえた音に、ああこれで僕の人生終わったかな。とプーチンは深く項垂れた。
 調子に乗って死期を早めるとは、正真正銘4月馬鹿だ。この4月1日という日に名を残す男になったかもしれない。
 せめてもらった飴を食べておけば良かった―――未練としたらこれほどにまでないちっぽけな内容を浮かべながら鉄拳を待っていたプーチンに、しかし手が当たったのは頭ではなく、肩。
 それも拳の状態ではなく開いた掌が、両肩にぽんっと、乗った。
 吃驚して顔を上げると、いつの間にかベッドから降りて前に立ったキレネンコが、高い位置から見下ろしてくる。
 見上げた顔に怒りの表情はなく、逆に冷静すぎるほどの整った顔がプーチンをのぞきこんでいた。

 「―――今日は、何をしても許される日だったな」

 じっと。本気で言っているらしい瞳に、プーチンは思わずたじろいだ。

 「え……?い、いや、それはちょっと、拡大解釈しすぎなんじゃ……」

 許されるのは、嘘だけだったはず。それも、罪にならない、他人に迷惑をかけない程度の範囲のもので。

 例えば、その獲物を見つけた鷹のように、本気の鋭さを持たないレベルの内容までが、許容されるはず。


 じり、じり、と押されるに遵ってムーンウォークをするプーチンの背が、壁に触れる。
 下がる場所のなくなったプーチンに対し、まだ前進する相手との距離が自然縮まってくる。

 超至近距離から見る半眼の赤眼が、光った気がした。

 

 ついた嘘を許してもらいながら、同時に色々と許さなければならなくなったプーチンは一つ身をもって学んだ。

 教訓。いつ、いかなる時でも、人を騙すのは宜しくない。





――――――――――――
 ちなみに、エイプリルフールを「何しても許される日」と言ったのは我が家の母です。

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