我が家のキル様節と糖度が無駄に高くなりました。
弟×緑
遠慮なんて、しません。
本文は『続き』からどうぞ。
ウサギのぬいぐるみ、木彫りの置物、綺麗な音の鳴るオルゴール。
一日10個限定の幻スイーツ、おもちゃのブローチ、ふかふかの真っ白いマフラー。
「他に何が欲しい?」
「え、えっと……」
満面の笑みでキルネンコに訊かれ、プーチンは答えに詰まった。
「今日は出かけるぞ」―――そう言って家にやって来た彼は有無を言わせないままプーチンを外へ連れ出した。丁度同居人である彼の兄が留守だったのも一因だろう。珍しいくらい機嫌良く、人で賑わう市内で買い物でもしようと提案してきた。
それは別に構わない。他の用事はなかったし、普段忙しくしていてなかなか会えないキルネンコと遊べるなら二つ返事で承諾する。街を歩くのも買い物も好きだ。肝心の財布は身支度を整える間なく引っ張ってこられたから持っていなかったが、「買ってやるから遠慮なく言え」というキルネンコが立て替えてくれているのでさほど問題ない―――一応プーチンは帰ったら戻すつもりではいるのだ。多分、断られるだろうが―――楽しい時間が過ごせる、ととても心躍ったのだ。
それからほんの半時程度。プーチンの周りはすっかり『欲しい物』で埋め尽くされている。
最新のレコードも買ってもらったし、玄関に飾る用の花も購入済み。なんとなく気に入った露天の石ころも「良いなぁ、」と言った次の瞬間にはプーチンの手の中にあった。3カペイカの商品に大きいルーブル紙幣を渡し、釣りも受け取らず先へ進もうとする相手へ店主共々目を丸くするも、気にも留められない。逆に「要るなら土地ごと買うか?」と尋ね返され、慌てて首を振った。
既に自分の小遣いからすれば買いすぎである。これ以上何が欲しいと言われても困るのだが、
ニコニコニコ。
そんな嬉しそうな表情を見ると、ともすれば否定的に聞こえる遠慮の言葉も言いにくい。
最も、実際浮かべてるのはニコニコなんて可愛らしいものでない、性悪の猫じみた何時もの微妙に食えない表情なのだがプーチンは気づかない。いや、正確には街中の誰も、気づいていない。
皮肉げな微笑刻む唇は見方によっては蠱惑的にもとれ、切れ長の目元と合わせて秀麗な面立ち深める。深く、ベルベットよりも艶やかな真紅の髪を編み垂らした背もスラリ高く、モデルか俳優かの二択しか浮かばない彼を見て一体誰が包括的な性格の諸問題を指摘するか。
目に見えて分かる顔の大きな傷跡ですら、異彩放つ特徴の一つでしかない。道行く女性は勿論、同性でさえ振り向かせるその存在感は最早、引力に近い。
四方八方から寄せられる視線を華麗なまでに無視した彼は、逆に紅い瞳を窮するプーチン一点に定める。その顔がふと、一軒の店へ向いた。
「ああ、手頃な宝石があるな。アレにしろ」
言った端からもうドアを潜りかけている、その背を悲鳴に似た声を上げ掴む。
大通りでも一番好立地な区画へ建つ大きな貴金属店は、明らかに今までの店と雰囲気異なる。庶民には結婚式の時ぐらいしか縁のない場で、且つ、『手頃』と称されたウィンドウの中神々しいまでに輝く大粒ダイヤの指輪は客引き用で、一応小さく値札がつけられているものの店側にも売る気がないのは一目で分かる。
それを即金ローンなしで買う気満載の裏長者番付一位を、渾身の力を込めてズリズリ道まで引きずり戻す。
「なんだ、気に入らないのか?」
「き、気に入るとかいらないとかじゃなくて……あんなの高すぎて、ムリですよぉ~」
「世の中無理と決めつけたら出来ないことだらけだ」
踵を返す彼の深い言葉に、コートを引っ張るプーチンは頷き半分横振り半分で「でも無理なものはムリですってー!」と叫んだ。
確かに、キルネンコの財力なら高価な宝石一つ買う事など難しくないのだろう。プーチンが大根を買うのと同じ気軽さなのかもしれない。見返りなくプーチンへ与えても何ら惜しくないし、無理な事など一つもないのだ。
だが、貰ったプーチンは一体どうしたら良いのか。
指輪は綺麗だ。見て「良いな、」とも思う。貰えたら嬉しくも感じよう。が、それより前に持て余す。恐れる、と言い換えても良い。
あんなに高価なもの、とてもじゃないが指に填められない。自分には分不相応すぎる。むしろ付けるならキルネンコ自身の方がよほど似合っているし、指輪も本来の価値を発揮できるはず―――兎も角。プーチンには、ムリだ。
折角プレゼントしてもらっても、心の底から喜べない。贈ってくれた相手にも物にも、失礼にあたる。
といった意味をまとまらない言葉で説明し、気持ちは嬉しいんだけどと頭下げ、納得いっていない相手を完全に店先から遠のけるまでには大分時間を要した。
膝に手を付きぜえはあ息を切らすプーチンを見下ろし、キルネンコは今日初めて不満げな顔を覗かせた。
「お前はそう言って、安物しか欲しがらない」
安物、とはあまりな言い方だが、別に嫌味で言ったわけでないのは知っている。単にキルネンコとプーチンとでは金銭感覚が違うのだ。そして、感性も。
物体の持つ価値を正しく数字化して理解できるキルネンコからすれば、骨董でもない置物や石ころなど正にガラクタでしかない。それは一般論であり、プーチンだってそうだろうなぁ、とぼんやり理解はしている。
でも、プーチンはそのつまらない品々に心揺らされた。欲しい、と思った。だから彼にプレゼントしてもらえ、本当に嬉しかったのだ。金額の高い低いなど関係ない。極端に言えば欲しいものと異なっても、贈ってくれる彼の善意だけでありがたい。
それに、
「キルネンコさんと一緒にいられるのが、僕は一番嬉しいです」
住む世界の違う、見た目も生活水準もかけ離れているはずの彼とこうやって肩並べて歩いている事が。対等な立場で話している事が。他愛もなくけれど貴重なこの時間こそ、沢山の形ある物を手に入れるよりよほど値打ちがあり、幸せにさせてくれる。
マフラーに隠れた口元が緩む。はにかんだ様子で笑うプーチンに、剣呑だった赤眼も若干元の光戻した。
「じゃあ、そこの洋服ぐらいにしとくか」
「ああああああアイスっ!服より僕、あっちのアイスが食べたいですっ!」
先程の指輪より幾らか格下げした、しかしプーチンでさえ良く知っている海外一流ブランドのブティックとは真反対の、どこにでもあるアイスクリームの屋台を示す。季節問わず開いている屋台には一転してカジュアルな装いの若者や子供が並び、数枚の硬貨と引き換えに至福の味へ舌鼓打っている。一様に浮かべられた明るい表情は、やはり金額イコール幸せでない事を物語る。特に色気より食い気であるプーチンがそちらへ反応示すのも無理はない。
ずっと歩き通しだったから、喉も乾いた。隣をチラリ上目遣いに窺うと、黙って代金を(やはり紙幣だが、)握らせてくれる。
「ありがとうございます!キルネンコさんは何味にしますか?」
「……バニラ」
「はーいっ♪」
並ぶのを嫌う相手を残し、軽い足取りで列に付く―――「欲のないヤツだ、」と後ろで呆れたよう呟かれた声は、聞かなかったことにする。
種類豊富なアイスケースを前に、バニラを一つと、散々悩んだ末自分のはチョコとストロベリーのダブルフレーバーを頼む。どうしても片方には絞れなかった。が、これ以上迷っていると屋台ごと買い占められるような気がしたので、悪いと思いつつ少し贅沢させてもらう。
両手のコーンを落とさないよう注意しながら、「お待たせしましたー」と離れた場所で佇むキルネンコの元へ駆け寄る。そこになってから気づいたが、彼を中心に据え遠巻きに人垣が出来上がっていた。
時間にすればほんの数分、腕組んで立っていただけなのにこの状況。何時もの光景ながらつい感心してしまう。
寄せられる憧憬に羨望、熱篭った秋波の数々は鈍いと言われるプーチンでさえ分かる。人心に敏い彼が何も感じないはずがないのだが、やはり当事者は一切周囲を気にする様子なく、差し出したアイスと釣りのうち前者だけを受け取る。
白い氷菓へと寄せられる横顔。雪のような色よりもまだほの白い肌の中で、唯一色付いた唇が薄く開く。そっと、口付け施すよう。触れ、啄ばむ。どこからともなく上がった溜息に同感だ。物を食べる姿さえ様になる。そのまま宣伝に使えば売り上げに貢献すること間違いなしだ。
あれだけ食べたかったアイスに手をつけるのも忘れ、並んだプーチンもチラチラ横を盗み見る。ナイフもフォークも使っていないのに不思議と品良く、優雅で、かと思えば時折覗く、舌先の濡れた真っ赤な色にドキリとしてしまう。白を溶かして侵食する色のその温度を想像し、勝手に頬が熱くなる。
そうして一人焦ったり慌てたり忙しなくするプーチンの鼻先へ、不意に白色が突きつけられた。
「だから変に遠慮しないで買えと言っただろう」
どうやら目線を食べたがっているものとして捉えられたらしい。半分ほど欠けたバニラアイスを向けたキルネンコの肩がやれやれと竦められる。仕方ないと表しつつも味見の機会をくれるらしい。
食い意地が張っていると思われるのは恥ずかしかったが、まさか実際考えていたことを言うわけにもいかず適当な誤魔化し笑いを浮かべる。ついでに折角なのでアイスも一口、貰っていく。
ひんやりした冷たさの直後、舌上一杯に広がった甘さとコク。濃厚でまろやかなミルクの風味が非常に口当たり良い。混じり気ない、シンプルそのものの味。さらに舌から鼻にかけてふんわり抜ける、バニラの甘やかな芳香がなんともいえない。口内から溶け消えてもなお優しい甘さ続く。
「美味しい~!」
これを選んだ彼は実に正解だ。プーチンも隠すことなく手放しに賞賛する。一瞬、言われた通り甘えてトリプルにすれば良かったかな?と思ったほどだ。
傍目にも上機嫌になったプーチンに、クスリ小さな音が降る。ほんの僅かな、空気の振動。
何気なく顔を上げたプーチンは、途端、バッと下俯いた。わ、わ、と声にならない心の叫び響かせる。今しがた、目にした光景に心拍数が跳ね上がる。
すぐ近くで、綺麗な顔に、そんな、いとおしげな微笑み浮かべられたりしては。
困ってしまう、という言葉は飲み込む。困るではなく嬉しい、けど、何だか恥ずかしい。恥ずかしいけど、すごく、嬉しい。
万人が見惚れてやまない造詣が、特別な顔して自分だけに向けられている。プレゼントを買ってもらった時よりも、もっと、深い表情で。特別な、感情持たせて。
寸刻前の照れ以上に気持ちが落ち着かなくなる。
隠すよう手元のコーンを口に運んでみるが、正直、味がほとんど分からない。ほのかにビターなチョコも甘酸っぱいストロベリーも全部一緒くたで、舐めて冷える舌とは対照に耳だの頬だのは発火してしまいそう。首元のマフラーが要らないくらい、じわりじわり体温が上がっていく。
どうしよう―――また一つ、欲しいものが出来てしまった。
良いな、なんてものじゃない。喉から手が出るほどに、欲しい。
一通り悩み、我慢し、自分に言い聞かせ。アイスが溶けないうちにと食べることへ集中してみたのだが、やっぱり、駄目だった。
恐る恐る、傍らの裾を引っ張る。ん?といった感じで見下ろす顔にはもう先程の表情はなかったが、プーチンの揺らいだ心は元の場に戻らない。
聞かせるつもりがあるのか、はたまたあちらから聞き返させてきっかけにするつもりなのか。ごにょごにょモソモソ、聞き取りにくい音量で言われたプーチンの言葉を、けれどキルネンコが何度も問いただすような真似はしない。
ただ、例の整った顔で意味ありげに目配せ送る。
「本当に、欲がないな」
差し出された腕はプーチンが要望したものを上回っていたのだが、あえて訂正しないで手を回す。
全然そんなことないですよ。今度こそ聞かせないようこっそり、赤い顔のプーチンが呟く。
引き寄せられた側から香る、バニラごと。離さないようしっかり掴んでおいて。
ウサギのぬいぐるみ、木彫りの置物、綺麗な音の鳴るオルゴール。
一日10個限定の幻スイーツ、おもちゃのブローチ、ふかふかの真っ白いマフラーに冷たいアイスクリーム。
それから、
(アナタが、欲しい)
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キルは甘やかす時はとことん甘やかす。(時々つれないけど)
そのうち本家の某場所が更新するかもしれませn
私の乱文コメントに素敵なお返事ありがとうございましたm(..)m
ちょっ(*/□\*)プーチン、本当に頂いちゃってもいいd・・・←秋刀魚だっつのc(>_<。)*C=(_ _;
すっ、すみませぬ( ̄□||||やはり、赤い双子が怖すぎるので秋刀魚だけ貰っていきまふ。(。´Д⊂)うぅっ!バイバイ、プーチン!!秋刀魚、ご馳走さまぁあ!
そして久々にお邪魔してみたら甘い甘い弟緑のお話がぁああ!!Σ(-∀-;)
読みながら甘い、超甘い(^q^)とおいしくモグモグ食べていました←コラコラ
キルネンコは気分によってテラ甘なんですね~!( 〃▽〃)
プーチン、幸福者です~。
でも私もプーチンなら甘甘に甘やかしたいです。そうして幸せそうに笑う緑のほっぺをホニホニしたい(*´∀`)
天然なのがまたいいですよね~~!自覚がないところがまた・・・(^q^)!
特に破璃様のお家のプーチンは可愛くて!
双子、羨ましいぜ!(つд;*)