双子の容姿考えてて何か覚えがあるなー、と思ったら案の定テイルズのアビスでした。ついこの前までの自分の旬ジャンル。愛情は主に子安さん(中の人)キャラにあったんですが。
今はゲームすらまともにしない引き篭もり生活なので……
双子捏造幼少期。
若干流血表現有りです。
本文は『続き』からどうぞ。
父親が1つ。母親が2つ。
「……どう分ける?」
「どうでも」
3つの形見を前に問い掛ければ、気のない返事が返ってくる。
涙も嘆きも見せないまだ子供の兄弟が、それでも無くした物の大きさを理解している事を周囲は知っていた。
不慮の事故だったのが未だ救いだったろう。屈指の実力者として名高い首領とその連れ添いの名に傷はつかず、家は無事に残った。あとは幼い面差しの嫡子が成長するのを待つだけだ。
窮屈な黒衣を纏った彼は、傍らに立つ己の半身を振り返った。
「それより、どっちが継ぐかの方が重要だろ」
重要、と言った割には全く興味を乗せてない赤い双眸が、同じ色の目を見る。相手も全く興味を示していないのが、その瞬間に分かった。
「順当に行けば、キレが継ぐんじゃねぇの」
「順当って何だ」
「兄貴なんだから先だろ」
至極当然のように若干母親の胎内から出るのが遅かった弟は言ってのける。確かに、一般的にいえば家は長兄が継ぐ。
跡を継げば当然、血を分けた兄弟であろうと格段の差が生まれる。与えられる地位、名誉、財産―――全て受け取るのは家長であり頭首だ。
大概の人間が羨み、欲してやまず、奪おうと躍起になるそれを、拘泥する事無く回そうとする。それに対して返ってきた答えは「面倒だくさい」だった。
「お前継げ」
「断る。面倒だ」
速攻で兄と同じ台詞で、譲られた座を蹴飛ばす。十字架の下に埋めたばかりの両親が泣きそうな話だが、二人にはそれすら興味がない。
暫し睨みあうように互いを見ていた赤い瞳が、同時に外れた。
ここでまだ十数年近く先になる話を繰り広げても仕方がない。どれだけ重要であろうと今後の変容を受け、改めて正式に決定する事項なのだから。
そうなるとやはり、先だって解決しなければならないのは目の前にある2で割り切れない形見だった。
―――2つある母の物は何とかなる。
相談することもなく、お互い片方ずつ形見を、その手に取る。
軽く、小さな貴金属。鈍い光を弾くそれは、永久の別れを遂げたヒトの命が宿るには些かちっぽけだ。
鋭利な先端を外し、どちらからともなく向き合う己の片割れへと左手を伸ばす。
触れた左頬に、そして抓んだ左耳に。同じ鼓動を、感じる。
元となる父より近く、与えた母より均しい、ガラス玉の向こうの自分。
その内側へと手を付き伸ばすように、右手に携えた切先を押した。
ブツッ―――
皮を突き破る音が、やたら近い。目の裏が真っ赤になるような刺激が脳を駆けてゆく。
沿わせた左手の指に感じる、生温い体液。その鉄錆の匂いまで、一緒だ。
「……普通は氷で麻痺らせるのか?」
「……つーか、テメェ骨に刺しただろ」
左耳を中心にじわじわ広がる熱。それをお互いに微塵も漂わせず、相手の耳を貫いた切先を、パチッと留める。
流れた血で汚れてしまった手を向かいの顔から離す。
改めて二人の視線は、自然と残された形見に向いた。
2つなら等分できる。4つでも割り切れる。しかし3つの場合は、さてどうしたものか。
どちらがどうすると切り出す事をしないまま、熟慮するには十分な時間が過ぎた頃。長い赤髪が揺れ動いた。
「キル」
父の遺した物を手に、短く弟の名を呼ぶ。向けられた顔へ、形見を扱うとは思えないぞんざいさでそれを放った。
緩く宙に描かれる軌跡を、彼が反射的に掴む。開いた手の中に冷たい物体を見た途端、嫌そうな表情が広がった。
「……まさかこれをやるから継げ、とか言う気か」
眉を寄せて呟いた疑問に、押し付けた相手は『当然だ』と言わんばかりの目で見てきた。その明快ともいえる発想に、思わず拍手を贈りたくなる。勿論、目一杯の皮肉を込めて。
はぁ、と幼さ残る顔が見せるには少々似合わない重々しい溜息をつきながら、彼は手の中の物を相手の手へと押し付ける。
乾いた赤い汚れのこびり付く手の中で、温い熱を帯びる金属が確かな形として触れる。
左耳に突き刺したものがヒトの命の軽さを示すならば、互いの手の間にあるものは自分たちの人生のつまらなさを物語っているようだ。
「こんなので人生棒に振れるか」
「俺は要らん」
「俺だって要らん―――継ぐ継がないに関係なく、2つも要らん」
1つで十分だ。
異物を刺した左耳の、ひりつく熱が膿むような疼きへ変貌している。じくじく、ずきずきと、耳たぶを中心に広がっていくようだ。
押し付けた手をさっさと引く。受け取る素振りを見せなかった相手の手へ、それでも形見は落とされる事無く乗った。
これ以上不毛な問答はごめんだ、とばかりに向けられた背に声はかからない。
編んだ赤髪を揺らしながら扉へ歩み寄った彼は、ふと兄を振り返った。
半分に割った命の片方。一人だった自分の半身。
父が居なくなっても、母が居なくなっても、変わらずに居る存在。
離れようとしても、立ち位置を変えようとしても、結局行き着くのは一つ分の居場所。
ならば―――
片割れの居なくなった部屋で、彼は手の中の形見を見た。
押し付けられた―――うまい事逃げた弟に、けれどあえて追うほどの労力を費やす気は起きない。
疼きを訴える耳朶に、今度は己の手で切先を突き刺す。
ぶつんっと音を立てた箇所から滴る熱に、片割れの血で染まった指が濡れる。乾いた赤の上から、新しい赤が指を染める。
弟より1つ増えた形見に、しかし差異はない。
「『どっちか』なんて、決める意味ないだろ」
告げられた、その言葉の通り。
互いの身に刻む物すら、二人で一つだ。