コメントくれてやるぜみたいなありがたいお方がいらした際はここの日記でお返事致します。
本家に雑文1本UPしました。また横道に反れてる……そして、あのアイドルグループの人に謝ります。使っちゃってごめんなさい。
昨日消してしまったと嘆いていた運狙を修復。(ゴミ箱漁ったけどデータ消えてました……)
追跡開始日。
本文は『続き』からどうぞ。
「ボリス、待てよ―――!」
上官室の扉を破壊する勢いで開けて廊下に飛び出した相棒に、コプチェフは声をかける。
向こう見ずな背中を慌てて追いながら―――そんな際でも退室の挨拶は忘れずに―――、聞く耳を持たないと分かっていて呼びかけた。
「待てって。少し落ち着きなよ」
「うるせぇっ!付いてくんな!!
状態確認?現状把握まで待機?―――ふざけんじゃねぇ!」
「ちょっと、声でかいよボリス」
廊下どころか本部の建物全てに響き渡るような怒声に、コプチェフが声を潜める。聞きとがめられればあまり愉快な結果を起こさないだろう内容も、今頭に血が上っているボリスには分かっていない。
いや、分かっていてもこの直情型の相手は言いたい事を言うのだろう―――横で諌めながらも、コプチェフは溜息をついた。
震えた空気に背後を振り向く事無く、ボリスは進む。ブーツを踏み鳴らし、床を蹴破らんばかりの力強さで廊下を進むと、行き着いた先のロッカールームの扉を躊躇いなく蹴り開けた。
また始末書物だな、と蝶番が馬鹿になってしまった扉に一瞥くれ、振り向かない背にコプチェフも続く。呆れたような目をしている彼の前で、ボリスが自分のロッカーを掻き回した。
手錠、警棒、拳銃、換えの銃弾―――諸々の装備を手荒に詰め込み、最後長大な銃を手に取る。
相棒の相棒ともいえる存在―――ドラグノフ狙撃銃を肩に担いだ相手に、コプチェフは気のない声で言った。
「VSS携帯の許可は下りてないはずだけど?」
途端、ギッ!と睨み付けて来る漆黒の双眸に、うわぁと両手を挙げる。怒気を通りこして殺意を乗せた目を、誰が治安を守る民警だと思うだろうか。
だから制服を着てない時には同僚から職務質問されるんだよ。そう、普段からきつい目つきの相棒に思う。
第一、殺意を覚える相手は自分ではないだろう。
迸る殺気に一向に恐れる様子のないコプチェフの前で、ボリスが咆えた。
「うるせぇっつってんだろうが!あんなクソみたいな命令、聞けるかっ!」
感情をぶつけるように、拳が激しくロッカーを叩く。薄いとは言いがたい鉄板に、歪んだ痕がくっきりと残った。
始末書がこれでまた一つ増えた。
だが、後でその書類に唸るだろう相手は一向に意に介していない。入り口の壁にもたれて腕組みをしているコプチェフがいなければ、その体は激情のまますでに外へ飛び出していただろう。
気持ちは分からないでもない。
自分のプライドだって、同じように傷つけられた―――あの、無茶苦茶な逃亡の仕方をする車と運転手に。
そうは思う。だが、それで自分の立場も投げ出して追いかけられるほど、コプチェフの頭は単純ではなかった。目の前で激昂する、真っ正直で何も恐れない相棒と違って。
「ただでさえ後手になってるんだぞ!?これで更に待って、どうやって捕まえられんだ!」
「だから状態確認するんでしょ」
「そんな悠長な事言ってられるかっ!」
冷静な物言いにボリスが感化される様子はない。
最もこの程度で納得するようなら今までの付き合いに苦労はなかった。何度とはなく経験してきた状況に―――その中でも一番になるだろう相棒の激怒に、やれやれと肩を竦める。
直情で己に正直なのが悪いとは言わないが、この世界ではさぞかし生きにくい性格だろうと思う。
不合理だと思えば上官でも怯むことなく「納得出来ません!」と異を唱えることも、後々の身の振り方も考えずに立ち回ることも、コプチェフには出来ない。
恐れ諂うわけではないが、長いものに巻かれるのは生きるうえで必要な手段だ。
冷静に―――冷淡とすらとれる自明の理を浮かべて首を振るコプチェフを、低い声が打った。
「お前は、来なくていい」
平坦な、先程までの烈火とは真逆の声だった。
水でも打ったように場を静まらせた一言に、ゆるりと湖面の色をした瞳が向く。向けられた視線の先、
ボリスの顔は怒りで我を忘れているわけでも強がりを言っているわけでもなく―――ただ、揺るぎのない目をして自身の相棒を見ていた。
その目を真っ向から見ながら、コプチェフがことっと首をかしげた。
「……俺、行かなくていいの?」
「来なくていい」
「―――そう」
コプチェフが頷く。紫苑の髪がふわりと揺れ頷く。その顔には動揺も驚愕も浮かんでいない。
話す事はすんだとばかりに、狙撃銃を負ったボリスは入り口に向かう。
来た時と同じ、迷いない足取りで。来た時と異なり、カツリカツリと静かに床を踏みしめながら。
入り口の方を向いて来ながら視線のぶつからなかい相棒に、コプチェフが改めて口を開いた。
「俺、本当に行かなくていいの?」
「いいって言っただろ」
「何で行かなくていいの?」
「四の五の言う奴は邪魔だ」
「どうやって追うの?」
「車くらい自分で仕立てる」
「自分で?」
「自分で」
「そう。」
「じゃあ―――俺たち、ペア解消?」
ぴたりと。ボリスの足が、止まった。
真っ直ぐに入り口だけを見ていた目が、壁にもたれたままのコプチェフの顔を捉える。
その口が何かを言おうと息を吸い込み―――
「―――ああ。」
と、空気の漏れるような声で頷いた事に。コプチェフは。
「―――っぶ」
「?」
「っあはははははは!」
憚ることなく、噴出した。
突然弾けるように笑い出した相手に、流石のボリスも面食らう。奇怪なものでも見るような色を黒眸に乗せると、止まっている足を一歩引いた。
その様子すらおかしいと言わんばかりに、コプチェフが笑う。もたれた背を離し、引きつる腹を押さえて、笑いすぎで浮かんだ涙を拭う仕草までしてみせる。
一頻り笑い倒した彼は、まだ収まらない笑いを含んだまま、目を丸くしている相棒解消宣言をしたボリスに近づいて肩を組んだ。
「っはは、いや、もうボリス最高。惚れちゃいそうだ」
「は?何訳の分からねぇ事言ってんだお前。つーか気持ち悪ぃ」
ぐっと近寄った顔の、若干高い位置に置かれた笑い顔に顔を顰める。首後ろから肩へと回された腕を退けようと手を上げる先、ボリスの目の前でくるりと銀色の金属が回った。
指を通した輪に取り付けられたキー―――そこで一緒に煌く、金属板のナンバーは『78』。
呆気に取られたような目をしている相手へ、コプチェフは自分のもう一つの相棒を握って、笑った。
―――だって、君とならどこまでも行ける。
―――
結び方がこの前と一緒……(凹)