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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 日記で使おうと思うネタをメモ帳に打ち込んでとっているのですが、本家のそっちのけに考えたりしているのでもうすでに本末転倒も良いところ。
 特に遅筆と冗長なのが自分でも嫌になるものです。おらにパワーを分けてくれとか叫びたいんです。
 笑顔を認識したりするデジカメがあるくらいなら、妄想を直接吸い取ってデータ化するマシンがあってもいいじゃないですか。
 ちなみに今日のネタ仕上げるのに4日。1日の日記に対して4日。なんて不可解な日付の流れ方。


 前回の続き。
 赤+緑。雷の夜、再び。


 本文は『続き』からどうぞ。




 激しい横薙ぎの嵐風が監獄全体を揺らすように吹き付けている。
 停電で漆黒になった廊下で足を踏み鳴らしながら、かじかむ手に息をかけた。はぁっと吐いた息は室内だというのに白く色をつけて昇っていく。
 半端なく、寒い。
 暗鬱なため息をついて手を擦っていると、雨音に混じって足音が聞こえた。音の方向に目をやればふよふよと小さな光の輪が漂う。
 それがだんだん大きく明るくなるにつれ、懐中電灯を手にした同僚の姿が闇から溶け出てきた。
 自分と同様白い息を吐く金髪の彼が手を上げる。それに応じながら、顔を苦笑の形に歪めた。
 お互いに苦労するな。そう思った時、窓の向こうで雷鳴が轟いた。

 視界を焼くような白光が、同僚の後ろに居た人物をはっきりと浮かび上がらせる。

 手錠をかけられた、長身の囚人。
 その顔に走る大きな縫合痕を目にし、次いでそこにあった目を見て、思わず息を飲んだ。

 背後から首を絞められてしまったように、息が出来なくなる。
 同僚とその後ろの男が前を通り過ぎ、また廊下を支配した闇の元で漸く詰めていた息を吐いた。握った掌や背中が、こんなに寒いというのに汗で湿っている。

 「化け物だな、ありゃ……」

 ひっそりと呟いた声は、雷の音に掻き消された。
 

 自室とも呼べる雑居房に戻され、キレネンコは手首を鳴らした。
 扉の向こうでは去り際に殴っておいた看守が何事か叫んでいるが、興味はない。
 痛いわけではないが、手枷は自由を制限するので鬱陶しい。勿論あの程度の手錠は簡単に外せる。しかしそれをやると房の中にいる時の行動まで制限されかねない。房を移れと言われた日には面倒くさい。

 ―――いや、移った方が良い事もあるかもしれない。

 房の中、二つあるベッドのうち自分の側のベッドの上。そこに白い団子があるのを見てキレネンコは舌打ちした。
 照明は停電で消えてしまっているが、夜目の利く目には確かにその物体が見えた。それは壁の向こうで雷鳴が轟く度微妙に動いている。
 無言で近づくと、「ひゃあっ」とか「ほにゃっ」とか漏らしなが震えているそれを、蹴落とした。

 「むほぉっ!」

 ごろごろごろんっ!とボールよろしく床を転がったそれを、冷ややかに見やる。
 白い球体は回転する間に布を解き、転がり出、だぶ付いた囚人服を着た間抜け顔を曝け出した。床に強かに打ちつけた鼻を押さえながら、打ったからかそれともその前からか潤んだ緑の瞳がベッドの上から睨みつけているキレネンコの目を見た。

 「あ。き、キレネンコさん……おかえりなさ」
 「勝手に人のベッド乗ってんじゃねぇ」
 「わぁあああ!ご、ごごごごご、ごめんなさいーーー!!!」

 向けられる怒気を正しく理解してプーチンは平身低頭謝る。無言で状況を詰問してくる空気を感じ、彼はべそをかきながら弁解した。

 「だ、だって急に停電して真っ暗になっちゃうし、キレネンコさんはなかなか帰ってこないし……雷は鳴ってるし。
 怖くってしょうがなかったから、その……人の居たところだったら、少しは平気かなって思って…………」

 あまり平気でなかった上に、もっと怖い事になりました。
 項垂れた背中が全て物語っている。通常ならそこに踵落としの一つでもめり込ませるのだが―――キレネンコは足を上げる事無くベッドへ転んだ。
 面倒くさくなった。勝手に自分の領域に入り込んでいた事にも訳の分からない言い訳にも腹が立たないではないが、これ以上関りあっている方が疲れる。
 さっさと寝るのが一番賢い選択だと、即行で思考から半泣きの同居人を追い出し、シーツを巻くって潜る。

 ―――微妙に、暖かい。

 冷えた体にすっと馴染む暖かさがベッドの一部分にだけある。やたらその範囲が狭いのは体躯の差だろう。違和感があるといえばそうなのだが、暖かいのは悪い事ではない。特に今日のようにひどく冷える夜は。
 俗に言う子供体温というやつか、と納得するキレネンコの背中側で微かに物音がした。軽く首を回すと、枕元のあたりに僅かに白い物が覗く。
 またか、と怒りを通りこして呆れが沸いた。
 シーツを被りなおしたプーチンが枕元近くに居座っている。ベッド以上に寒さが伝わってくるだろう床の上で膝を抱えるなど、よほど寒さに強いのか、神経が通っていないのか。正気の沙汰とは思えない。
 第一雷が怖いからといって、平気で自分に寄ってくる事自体が解せない。キレネンコが今まで対峙した相手は多かれ少なかれ、こちらに対して畏怖や嫌悪を浮かべていた―――それこそ、マフィア稼業の頃の直接の部下でさえ。
下心あって下手を打っているなら分かるが、鬱陶しいくらい邪気のない緑の瞳にそんな腹芸が出来ているとは思えない。
 何を考えているのか。何も考えてなくて分かり易過ぎるような風を見せて、さっぱり何も分からない、この生き物は。

 「おい」

 闇の中響いた低い声に、プーチンは飛び上がった。寒さが直接身に染みる床では流石に睡魔は訪れなかったが、突然の事に一瞬寝ぼけた時のように誰の声だろうと考えてしまう―――ここに住まうのは自分ともう一人しかいないというのに。
 膝に埋めていた顔を跳ね上げ、きょろきょろ辺りを見回そうとする。
 その首が後ろへと振り返ろうとした時、喉元に何かが巻きついた。
 冷たい―――と、その感触を思う前に、ぐっと頚動脈に圧迫を感じる。
 気管を潰されてはいないので息は出来るが、声がつまった。
 何時だったか経験した時と同じ。ちょうど今夜と同じように、雷鳴の聞こえていたあの晩と、同じ。
 片手で首を絞めているキレネンコが、見開いた目に映った。

 「……恐いとは思わないのか」

 俺が、と唐突に問われ、プーチンは首を絞められかけているのも忘れて瞬いた。外に響く雷鳴すら聞こえなくなるくらいに、ぽかんとして。
 長い赤の前髪が影になっていて彼の表情は分からない。そもそも室内が真っ暗なせいで細かい部分はさっぱり見えない。しかし何故かは分からないが、自分を見下ろす赤い瞳はきっと怒っていない
だろうとプーチンは思った。正直に答えても怒らないだろう、と。
 力はさほど加えられていない喉から、つっかえながら言葉を出した。

 「え、えと……怒ってる時は、その、やっぱり、ちょっと恐いですけど」

 なんたってあれだけの迫力。あれほどの暴力。恐くないなどと言う方が失礼だ。
 ただ、普段は思わないです、とプーチンは続けた。

 「キレネンコさん静かだし。几帳面だし。にんじんだって育ててるし」
 「……育ててたら悪いのか」
 「へっ!?い、いえそんな事ないです、言ってないです!」
 
 何が逆鱗に触れたか分からないが不機嫌になった声音に、プーチンはぶんぶん手を振った。と、そこに襲ってきた落雷音と閃光に「ひゃぁあっ!」と心臓ごと跳ね上がる。実際には首を押さえられているため体は浮きも何もしなかったが。
 今は目の前で生殺与奪の権を握っている人物より、雷の方が怖い。十倍も百倍も怖い。
 プルプルと涙目で震えているプーチンを、赤い瞳が思案ありげに見下ろした。

 こんなに小心なくせに、自分の事を恐いと思わないなどと言った。掴んでいる首だとも容易く片手で折れるほど細く弱いくせに、恐れもせずに正面から緑の瞳が見つめてきた。ますますよく分からない。脅すような態度をとってみて唯一分かった事は、掌に感じる相手の体温がやはり子供のように高いという事だけだった。

 元よりポーズだった手を引き―――思い直して緑と白の囚人服を掴んだ。
 ひょいっと音がしそうな程軽く、囚人服に包まれた体が浮く。不意に訪れた浮遊感にプーチンが驚きの声を上げる間もなく、体はぼすんと落ちる。硬質な氷のようなコンクリートの床から一転、バネのきいたマットレスに柔らかく体が沈んだ。

 そういえば何でキレネンコさんのベッドは硬くないんだろう―――つい一時前に知った自分の綿の出た煎餅のようなベッドとの違いが、今体の下にある。

 慌てて起こそうとした半身は、背中からかかった声に止まった。

 「動くな」

 振り返ったら殺す、と静かなけれど冷え冷えとした声に、それこそ雷に打たれたように体が固まる。纏ったシーツの下で息すら止めていたプーチンの肩へずしっと乗る重みがある。肩と、それから背中全体に当たる冷えた感触に振り向きたい衝動に駆られるが、働いた自衛本能にそれは押し留められた。首を絞められていた時以上の緊張に背筋に冷や汗が浮かぶ。

 ガチガチになった体に腕を置いて、ふむとキレネンコは分析をする。力が入っている事を除いても柔らかさは少ない。女でないのだから当然か。しかしシーツ越しの背中は思っていた通り自分より大分高い。これなら今夜のように冷える房でも少しは過ごし易いはずだ。
 ごつかったり汗臭かったりしないだけ、湯たんぽとしては合格ラインだろう。
 向こうは雷から、こちらは寒さから回避できる。давальческоеギブ・アンド・テイクだ。

 ひとまずこれで今夜は勘弁してやろう―――じんわり体へ広がりだした温もりに、赤い瞳が大人しく閉じられた。

 そんな後ろの人物の考えなど知るよしもないプーチンは身動きできないまま空っぽの自分のベッドを眺めた。
 あちらに戻ればこの緊張からは開放される。が、その場合先程の『動くな』は適応されるのだろうか。適応されたらやっぱりスパッと首を刎ねられてしまうのだろうか。
 それに戻ってしまえばまた雷に怯えなければならない。外を揺らす嵐の気配はまだまだ遠退きそうにない。ゴロゴロ、と壁の向こうで聞こえる音に一人で耐え切る自信はなかった。

 どこに居ても結局今夜は眠れなさそうだなぁ……

 そう思ってから数分後、プーチンの耳が雷の音を聞き捉える事はなかった。

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