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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 本家更新しました。これからやっとキル様の話に取り掛かろうと思っております……多分、遅くなる。

 前からずっと芥のところの02にリンクをはっていなかったんですが、あれは01の流れを汲んで書きかけていたのを没にして代わりにここのが長くなったので入れ替えようとしていたんです……
 なので、せっかくなので没ネタをこっちで使おうかと。



 赤+緑。
 散髪の話。



 本文は『続き』からどうぞ。

 「キレネンコさんの髪、綺麗ですよね」

 掬い上げた長い赤髪を陽に透かしながら、プーチンはニコニコと鏡に映る顔へ笑いかけた。
 鏡台に映りこむ無表情は褒められた事に対して笑いも照れもしない。多分、興味がないのだろう。それでも髪を梳く手を払ったりしないあたり、傍らの存在を許容しているようだ。
 反応が返ってこないのは常の事なので、プーチンも気にせずに鋏を進める。

 しゃき、しゃきっと刃が鳴る度、彼の膝に置いた新聞の上へぱらり、ぱらりと髪が落ちる。
 指先に触れた髪は持ち主の性格と似ていて、少し癖がある。しかし燃える夕日よりも色濃い紅の色彩は感嘆の息を漏らすほどに、鮮やかで美しい。
 鮮烈に瞼へと焼きつく、紅蓮の色だ。
 切り落としてしまうのがもったいないとすら思える。
 長い獄中生活から逃亡生活までの期間に伸びた髪を「切りましょうか?」と尋ねたのは自分だというのに、刃を入れる度に落ちてゆく赤い錦糸に未練を感じてしまった。

 あまり長さは変えずに、裾を揃えるだけにしよう―――

 切られる本人からカットの注文は特になかったが、勝手にそう決めてしまう。
 器用な手つきで鋏を動かすプーチンに、キレネンコは黙ってするがままにさせている。
 あまり他人との接触を好まない彼が、髪を梳かれるのにも安全ピンをつけた耳に手が触れるのにも文句を言わず大人しくしているのは一種奇跡のようだ。
 かつて彼の世話を(職務上仕方なく)行っていた看守当たりが見たら、驚愕で卒倒するかもしれない。
 実際蓋を開けると、ずっと一緒に居る監獄を出た現在も同居人である相手限定で接触を拒まない傾向にあったりするのだが。


 その事実に全く気づいていないプーチンは、すっかり切りそろえてしまった髪に丹念にブラシをかけた。
 サラサラとした触り心地を離すのが惜しくて、必要以上丁寧に梳く。

 もう少し、触れていたい。

 思えども直接それを口にして拒否された場合を考えてしまい、言葉にして告げるには尻込みしてしまう。何とかならないかな、と手を動かしながら賢明に考えていたプーチンの顔がぱっと輝いた。

 「キレネンコさん、髪編んでみるのはどうですか?」

 長い赤髪を一房手に取り、プーチンは鏡の中の相手に伺う。
 彼の髪は常に背へ流したまま、手にかける事をしない。それでも十分美丈夫なのだが、折角綺麗な髪を持っているのだからもっと色々と弄ってはどうだろうか。
 そうすればもっと触れていられるし、ついでにいつもと違う姿を見る事も出来る。まさに一石二鳥、いや一挙両得だ。
 浮かんだ妙案に自分でも惚れ惚れしながら、プーチンは嬉々とした。

 「僕こういうの結構得意なんですよ。キレネンコさん格好良いから何でも似合いそうだし」

 鏡の中で無感動な赤い瞳が動く。握った櫛を振らんばかりの勢いでテンションの高い相手を鏡面で捉えたキレネンコは一瞬思案し―――緩く首を振った。

 「要らん」
 「え?」
 「俺は、髪は編まない」

 俺は、の部分を若干強調した低い声に、プーチンは戸惑った。
 嫌がるかもしれないと思わない事はなかったが、こんなにあっさり拒否されるとは思わなかった。気も早く動こうとしていた指先が行き場をなくしてしまう。
 だが、不要と言われたのにいつまでも触れている訳にはいかない。
 惜しみつつ手を引けば、それで散髪は終わりだと認識したキレネンコが膝の新聞紙を退かした。

 これで本当に触れる口実がなくなってしまった。有り余る未練は、一体どこに向ければいいのだろう。

 矛先をどこにも向けられないまま、道具を片付けながらプーチンはこっそり肩を落とした。
 人生思ったようにはなかなかいかないものだ。ここ最近身に染みて分かった事象を改めて実感する。下心を持った企みは、主が全てお見通しという事か。だとしたら考えていた内容が内容だけあって、ちょっと恥ずかしい。
 気恥ずかしいのと残念な気持ちのとを誤魔化すようにプーチンは溜息を一つこぼし、回収した散髪道具を棚に仕舞うべく立ち上がった。
 その腕が、ぐいと引かれる。
 「わっ!」と驚きの声を上げてバランスを取ろうとするものの、突然の事で尻から落ちるようにして体が沈む。
 床に打ち付けてしまう尻の強かな痛みを想像して思わず目をギュッと閉じたが、想像していた腰骨に響く衝撃はなかった。

 ぼすんっと座り込んだ場所は硬質な床ではなく、僅かに温かい人の足の上。

 瞼を開けると、真向かいになった質素な鏡台が目に入った。
 その鏡に映る自分と、散髪中の前後位置と交換するように後ろから抱える赤髪の人物。さら、と切ったばかりの髪がプーチンのすぐ脇を垂れた。
 すっぽりと形容するのがぴったりなサイズで腕に収まったプーチンの頭に顎を乗せて、髪と同じ色の無感動な瞳が鏡を見た。

 「……いつまでも髪なんか触るってるな」
 「ぅはっ!あ、え、えーっと、すみません!」

 頭上から降ってきた声音に、プーチンは背筋を正した。慌てて顔を見るべく首を反らそうとするが、頭の上に顔を置かれているせいで動かない。
 あわあわしているプーチンに、淡々とした声が続けた。

 「触るなら、神経の通ってるところにしろ」
 「ほふ?―――あ。」

 ぱちぱちと瞳を瞬かせた顔に納得の色が浮かぶ。ああ、と。その全ての意味を理解して。
 鏡の中で抱えられた顔は綻ぶように微笑むと、明後日の方向に反らされた顔へと手を伸ばした。


 「じゃ、僕とおそろいのくくり方は、どうですか?」
 「却下」

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