名前とパーツお借りしているだけの別人28号さん。
単なる柄の悪い良い人になってきているんだボスウサギ。
一番初心に戻らないといけない相手かもしれません。
弟→←緑。
理解できない、ひと。
※ちょっと、(日記にするには)不健全?
本文は『続き』からどうぞ。
唇へと刺さってくる、硬質な歯の感触。
柔らかな肉に牙が深く、止まる素振りなく埋まるを察知して目の前の胸を叩く。一瞬加減をするのを忘れて拳で強く、殴るように叩いたというのに―――びくともしない。
身を抱きすくめる腕との、明らかな腕力差。見せ付けられたどうしようもない力量に愕然と開いた目に、至近距離の目が愉しむように哂った。
「…………っ、!」
ガリッ―――耳へ、塞がれた口の内側から直接音が響く。
破られた皮膚から生じる焼け付くような熱と、半ば覚悟していた、疼痛が。目の前を赤く染ていく。口内へ広がる鉄錆の苦い味に、口を開いているのは限界だった。
吐き気に急かされるよう、最後にもう一度強く体を押す。舌を噛んでしまう―――その直前に、さっきまで動かなかったのが嘘のようにあっさりと離れた。
口内にあった、血を溶け込ませた唾液全て飲み上げていって。
ゴクリと動く喉が、満足げに細められた目を、信じられない気持ちで見やる。
なんで―――ズキズキと痛覚に訴える傷口の痛みも忘れて、叫んだ。
「なんで―――なんで、こんなことするんですか……!?」
まともな返答が一度も返ってきたことのない問いを、それでも尋ねずにはいられない。熱と痛みと、行為の残りでじんわりしていた目元が、更に他の感情を付与されて熱くなる。
駄目だ、泣いたら―――噛み切られた唇を噛み締めて、込み上げてくるものを堪える。涙を零したところで目の前の相手へ訴える要素にはならない。一層、惨めさが増すだけだ。
愉しそうな、まるで理解できない笑みを浮かべる相手は一体何なのか。少なくとも、こんな事を―――情愛があるのか責苛んでいるのか解らないような行為をする間柄では、ないのに。
触れてこようと伸びる手から顔を背けながら、精一杯の気持ちを込めて訴える。少しでも、不可解なその胸の内に届くように。
「こういうことは……好きな人と、することなんです……!」
口付けを交わすのも、頬を柔らかく撫でるのも。間に挟んだ傷つける行為を除いて、全て特別な相手とだけ成立する事柄だ。だというのに、肩を軽くすくめてみせた相手がそれを理解した様子はない。その口から紡がれるのはいつだって、どこかずれた―――氷塊のような冷たさのある言葉ばかりで。皮膚を裂いた牙よりも鋭利に、心へと突き刺さる事がある。逸らした視界から盗み見た赤い瞳はそれを裏付けるよう、温度がない。
「気に入った、と言っただろう?」
「違います……!そうじゃなくて、もっと、ちゃんとした―――愛情があって、やることなんですっ……!」
そう、振り絞るように、叫んだ想いは。
一笑に、付された。
「愛情?何だ、それは」
鼻で笑う、せせら笑いが。整った顔に張り付いた笑みが、深められていくのに。声を失う。
揶揄するように口の端を上げて言いながら、その実向こうが冗談で言っているわけではないのが解る。間違いなく本心から、そう思っている。
まるで違う惑星に住む相手とコンタクトを取っている気分だ―――言葉を交わせば交わすほど、歪みが見つかる。
決して相容れることのない、絶対的な感覚の差異。疎通出来ない意思。触れ合う意味さえ、同じ想いで認識出来はしない。
―――何で。
紙一枚挟まる余裕ない距離で向き合っていて尚、この人は。
本心を、見せてくれない。
竦然と垂れ下げていた手が掬われる。気付いて引っ込めようとしたが、意識とは裏腹に神経が麻痺したかのように腕は動かない。捉える腕が伝える、振り払うなという命令に勝手に本能が従う。
押さえつけていた時とは一転、壊れ物を扱うようにそっと持ち上げられた指先に唇が触れる。吐息を滑らせて、恭しく。まるで恋人にするように口付けた相手の目と―――かち合う。
カリッ―――と予告なく噛まれた指先に。全身へ、電流が走る。飛び上がった耳元へ、綺麗な弧を描いた口が寄せられた。
「なら、『愛してる』とでも言ってやれば、服の一つでも脱ぐのか?」
「―――っ!」
特別な一語を殊更強調するようにして、囁く声。言葉戯びを愉しんでいるだけの相手を、食まれた手で突き飛ばす。抵抗なく生じる隙間から翻した身に、赤い眼が薄く哂う。
その眼をもう見たくなくて、一気に駆け出す。滲む血の味を噛み締め、後ろを振り向くことなく。只管走る。
走って、走って、逃げるように、走って。
千々に千切れそうな心を抱いたまま、止める事の出来なかった涙が伝うまま。追いかける手のない後ろから、只管。只管、逃げ走る。
―――その手が捕まえてくれたのなら、こんなに悲しくなんて無かったのに。