たまには両思いでも良いんじゃないかと思ったんです。
ちょっと微妙に結果が変わってしまっていますが。両思い。
看守→←緑。
自嘲も嘲笑も、もう十分。
本文は『続き』からどうぞ。
「僕のこと、どう思いますか?」
一瞬、手札の揃い具合を見ていた目が止まる。飛んでくる視線から隠れるように、カードの向こうへプーチンの顔が隠れた。
―――変な事を尋ねているという、自覚はあるらしい。連敗中のゲームの流れを変える揺さぶりの発言ではないようだ。
「……そうだなぁ」
クラブか、ダイヤか。8より強い数字はないか。手札のカードを選ぶフリをして、カンシュコフは向かいの表情を伺う。ポーカーフェイスの出来ない正直な相手は、眉を寄せてカードを握っている。形勢逆転の一枚は、どうやらその中に含まれてはいないようだ。
何を出しても勝てるだろう相手の前へ、選んだカードを引き抜いた。
「チビで、」
クラブの6。
「やかましくって、」
ダイヤの9。
「馬鹿が付くくらい、どうしようもない―――お人よし」
ハートの12。
手札は全て、出し切った。
「……そんなとこか」
「……ひどいなぁ」
パタッと、プーチンが手札を倒す。散った一ケタばかりの弱小カードの集まりに、カンシュコフが笑った。
勝者のからかうような笑い方に、プーチンも一緒に笑った。連敗中とは思えないほど、穏やかな笑みを浮かべた顔の前。勝利の女神に握られない人差し指がすっと立てられる。
「もう一回。お願いします」
「これだけボロ負けなのに、お前もよくやる気になるよなぁ」
ま、良いけど。
勝つのは悪い気分ではないし―――顔に似合わず賭け事の好きな相手の、何度目かの『もう一回』にカンシュコフは付き合ってやる。
テーブルに散ったカードをかき集め、手際よく切る。シャッフルを対戦相手へ任せるプーチンの目は和んだままだ。きっとカンシュコフがイカサマやをすするとは微塵も思っていないのだろう。
そんなチビでやかましくて馬鹿が付くくらいどうしようもないお人よしへ、山を渡す。当然、何の仕掛けも施してはいない。完全な運勝負に次こそはと袖を捲くる相手へ苦笑しながら自分の手札を引き抜く。
中々良い組み合わせで来てる―――翳すカードで隠した口元を上げたカンシュコフとは対照的に、プーチンは難しい顔をして唸っている。やはり案の定な具合らしい。
この勝負もいただきだな、と早くも勝利宣言を掲げたカンシュコフは余裕の頬杖をついた。
一枚弱小カードが紛れているが、何度かターンが回れば出せるだろう―――あちらが、それより弱いカードを持っていれば、だが。
向かいではどれを出そうか悩む指がカードの前でさ迷っている。右、左、右、左。端から端まで往復させループしてしまっている優柔不断な相手を珍しく急かさす気にならず、気長に待つ。
こういう奴なんだから、仕方ない。
チビでやまかしくてお人よしなのをどうしようもないのと、同じように。
そう、知らず見守るような目をしていたカンシュコフの視線の先で。
プーチンの指が、止まった。
「カンシュコフさんは、僕のことをどう思っていますか?」
「…………………」
先の質問とは若干異なる言い方と―――カードから上げて、真っ直ぐ見つめてくる目に。連勝が確定して揺さぶられる要素のなかった胸が、揺れた。
思わず頬杖を解き、手札へ目を落とす。
ハートか、スペードか。6より弱い手札はないか。出す順序も手数も決めていた、確認する必要のないカードをもう一度見直して―――引き抜いていく。
「俺は、」
ハートの10。
「お前のこと、」
スペードの13。
「……家族みたいに、思ってる」
出来の悪い、弟のような。
手札を―――全て、出し切る。
「……そっか。」
ぱたん。とプーチンのカードが、広げられる。7を筆頭に、相変わらずの弱い手札。
敗者から再戦を申し込む指は立てられない。代わりにぺこりと頭を下げた、今日一度も白星を掴めなかった顔が微笑んだ。
「遊んでくれて、ありがとうございます。それから―――家族みたいだって、言ってくれて」
「嬉しいです」と言って穏やかに笑うプーチンに、カンシュコフも笑う。笑って、隠さず出されたカードと隠して出したカードを、手のうちへと、かき集めた。
一番弱いカードを重ねて出した卑怯を、馬鹿がつくくらいのお人よしは責めなかった。
出し切ったフリをして卑怯に逃げた言葉を、どうしようもないお人よしは、責めなかった。
本当は、伝えたかったんだ―――好きだ、と。
***蛇足***
看守は最後の最後で倫理だとか常識だとかに縛られるタイプかなぁと。
イカサマなんかは、しないとは思うですがね、うん……
あとトランプのルールはちっとも考えてないので、見逃してください……