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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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赤+緑&看守

(裏)といっても、裏の内容ではないのであしからず。



本文は『続き』からどうぞ。




 食事にシャワーに体操にギャンブルに。囚人の面倒を見るのが看守の仕事で、看守に逆らわないのが囚人の模範だ。
 そんなわけで、この監獄でも一番の模範囚の相手にカンシュコフは今日も職務に励む。

 「しっかし本当良く伸びる顔だなー。ゴム人間かお前」
 「いひゃひゃひゃひゃ、いひゃいでふゅー!」

 腕と変わりない使い勝手になるまで馴染んだマジックハンドを、模範囚の顔にかけて右と左、それぞれの方向に引っ張る。
みょーん、と顔の幅倍近くまで伸びる頬は稀に見る伸び具合で、半べそになっている顔も含めて非常に楽しめる。


 題して、遊びの時間。

 誰の遊びかは言及しないが。


 右へ左へ上へ下へと十字スティックのように頬を引き回し堪能してから、最大限まで伸ばしてぱっと離す。
 べちんっと音を立てて戻った頬は若干腫れて膨らみを増している。

 遊びの時間、終了。
 今日もいい仕事をした。

 額に浮かぶ汗を拭いながら、真面目な看守のカンシュコフは次の仕事に取り掛かるため扉の前を離れた。


 「うぅ~……いひゃかったよぉ……」

 散々引っ張られてヒリヒリする頬を押さえながら、プーチンはベッドにダイブした。
 看守によっては無意味に殴りつけてくる相手もいるのでそれに比べれば羽根で撫でるようなものなのかもしれないが、痛いものは痛い。
 水を浸した布で冷やしたいが、そんな気の利いたものなど監獄内にはない。仕方なくあまり柔らかくない枕に顔を押し付けて熱が引くのを待つことにした。


 と。前触れもなく脇に気配を感じた。


 友達のヒヨコとも蛙とも異なる、もっと大きな気配だったので流石の鈍いプーチンも気付く。最も、そこで誰だろう―――?と思うあたりがまだ鈍いのかもしれないが。

 ヒヨコよりも蛙よりも大きく、この房の中に居る存在は一人しか居ない。


 顔を上げたプーチンが見たのは当然、同居人の囚人キレネンコだった。


 高い位置から見下ろしてくる赤い半眼を受け、プーチンは跳ねるようにして起き上がる。
 ひり付いていた頬さえ冷却効果を受けたように熱が消え去った。思わずベッドの上に正座し、背筋を伸ばした。

 「……えっと……き、キレネンコさん?」

 ドウカシタノデショウカ?
 緊張のあまり、声が片言になってしまう。
 凶悪犯で死刑囚だとカンシュコフたちから教えられたキレネンコは普段物静かなため、一緒の房に居てもプーチンは取り立てて恐怖を覚えなかったのだが、無言で目を合わせた時はとてつもなく緊張するのだ。
 底のない目を見ているとどのあたりに焦点を止めたらいいのか分からず、クルクル目が回ってしまいそうになる。
 むしろ目を回して倒れてしまえた方が良い。
 そもそも普段自分のテリトリーから離れない彼が、何故こっちへ来ているのか。何か自分はやらかしただろうか?

 背中やら額やら正座した膝の上に置いた握った掌にやらじっとりと悪い汗が滲む。

 どれくらい無言で目を合わせていたのか分からないが、段々回ってきたプーチンの視界ににゅっと何かが伸びてきた。
 それを何か認識する前に、顔にわしっと食い込むものがあった。

 「む、ほ……?」

 頬肉の上に感じる、部分部分を押す圧力。マジックハンドで若干過敏になっているほっぺたを今度は骨のある指が当たっている。
 目の前のキレネンコは相変わらず空洞のような目で見下ろしている。が、確実に自分の頬を掴んでいるのは彼であり、視界の先に伸びている腕がそれを証明していた。

 冷や汗が、一層湧き出る。

 あれだけ良く伸びていた頬すらびしりと固まってしまっている。
 なんといっても、その頬を掴んでいるのは鋼鉄の扉すら真っ二つに畳んでしまう豪腕なのだ。鼻筋を中心にパタンと折られてしまうかもしれない。むしろそのつもりで掴んでいたりして。
 過ぎった想像に震え上がりながらも、首一つ振れない。
 口から魂を飛ばしかけているプーチンの頬を摘んだ指に、力が篭った。


 むにむにむにむにむに。


 「ほっ!?ほふっほふふっ!」

 親指が、人差し指が中指が薬指が、むにむにむにとほっぺたを動かす。
 動かすといっても、カンシュコフのマジックハンドのように極限まで引っ張る事はなく、逆に頬肉を押すように抓み動かしてくる。揉んでいる、ともいえるのか。最初指先だったのが次第に掌で掴まれ、ピロシキの皮作りのようにあっちにこっちに捏ねられる。
 痛みはさっぱりない。畳まれる事もないし、ぺしゃんと押し潰される事もない。

 しかし、生きた心地もさっぱりしない。

 ぐにぐにと新手の顔面マッサージを受けながら、プーチンの脳裏に昔読んだ寓話が浮かぶ。顔にこぶのあるおじいさんが鬼を楽しませて、こぶをプチリと千切ってもらう話だ。
 そのこぶのようにぷちっと千切られてしまうかもしれない。餅を千切るような簡単さで、ぷちっと。

 違うんですそれはこぶじゃないんです千切らないでキレネンコさーん!

 そう叫ぼうにも、自分の意思以外の動きをする頬に力は篭らずほふほふと息が漏れるだけだった。
 混乱と恐慌で涙目になっているプーチンを見ているはずだが、キレネンコの表情は変わる事なく手だけ動く。

 むにむにむに。
 むにむにむにむに。
 むにむにむにむにむにむに―――ぐぅ。

 「……ほ?」

 一瞬耳に聞こえた音に、プーチンが瞬く。今、何か唸るような音がした気がする。蛙の喉声をもう少し低くしたような。
 同時に頬を捏ね回していたキレネンコの手が止まった。
 ちなみに今プーチンの頬は左右共に半分程度の位置まで引っ張られた状態で止まっている。このままキレネンコが両腕を左右引けばプーチンの想像通りぷちっと肉が取れるだろう。
 見下ろしてくる半眼からはやはりさっぱり意図が分からなかった。無言のままなのが益々恐い。恐すぎる。
 爪先を引っ掛けた猫と鼠さながらのまま固まっている二人の空気は、外部からの風で動かされた。

 「おいコラ、おやつの時間だぞ。ひれ伏して受け取りやがれ」

 声と共に、室内に皿が二枚滑り込んでくる。上にはグミが一つずつ乗っかっている。
 同時にガラッと開けた覗き窓から顔を見せたカンシュコフの目が、キレネンコと合った。

 …………何で、04番と目が合う?

 普段ならおやつと告げた瞬間、駆け寄って覗き窓に輝いた目を見せるのはもう一人の囚人の方だ。あの死んだ魚のような、光なんか何処まで掘り進んでも見えないような目がこちらから声をかけた時に向く事は腹立たしいがない。最もあまり目を合わせたくはないので良くもあるのだが。
 それなのにばっちりしっかり合ってしまった目にたじろぐカンシュコフに、キレネンコはプーチンの頬から手を離すと扉に歩み寄った。
 自然、表情のない目とゼロ距離射程圏内で睨み合う事となる。

 「な、何だ、何か用か」

 言いつつ、カンシュコフの手が腰元に下げた棍棒に伸びる。扉が遮っているとはいえ、この凶悪犯と対峙した時には無意識に手が武器を探してしまう。そもそも強固な扉ですら毎回防御の役割を果たしていないのだから自衛をするにはやられる前にやるしかない。

 まさか殊勝にもおやつの皿を取りに来たという事はあるまい。
 第一こちらが与えてやった最初の物でコイツが満足した例はない。毎回取換えを、しかも刑務所で死刑囚が望むべきでないような物を要求してくるのだ。
 またケーキとか抜かすんじゃないだろうな。というか体操もちゃんとしないくせにケーキだのステーキだのばかり食べてたら太るぞデブるぞ絶対に。逆にその状況で均整のとれた体型保持している方がおかしいんだよお前。世の女に殺されちまえ。

 懸命に心の中で罵倒しているカンシュコフの前で、キレネンコは足元の皿からグミを摘み上げた。
 小さな丸い本日のおやつを指先でふにふに揉む。思案するように暫くその弾力を確かめた赤い目が覗き窓を見やった。

 「おい」
 「あ?なんだよさっさと食えよ文句言うなよあと541番の分は獲るなよ自分の分だけ―――」
 「換えろ」
 「人の話聞けよお前!文句言うなっつたろ!」

 殴るぞコラ、と棍棒を構えようとしたカンシュコフの眉間に、ビシッ!と礫がクリティカルヒットした。
 脳天を突き抜ける衝撃に、まともに受身も取れないまま後ろへひっくり返ってしまう。
 きっと自分はこの世でグミをぶつけられて倒れた初の存在になっただろう。そして扉の向こうに居るのはグミを音速の速さで弾き飛ばして人を殺すことも可能な世界初の化け物だ。本当、ちっとも嬉しくない。
 額を押さえて呻いているカンシュコフに、淡々とした化け物の声が降った。

 「大福」
 「……は?」
 「苺は入っていてもなくても可にしてやる」

 だからさっさと持って来い三秒以内だそれ以上待たん。

 非常に尊大かつ横柄に告げられた言葉に若干譲歩が混ざっていたようなのを感動すべきか、否絶対する必要ない。変なところで器の広さを見せてやる事など全くもってない。
 「ふざけたこと言うなこの凶悪犯が!」と叫んで反撃しようとしたカンシュコフを二発目のグミ弾が襲う。今度は更に高度な箇所、左鼻の穴奥へとホールイン。伸縮性に富んだグミでも鼻の穴のサイズよりは大きいので痛いかどうかなど言わなくても分かる。
 ティッシュをティッシュをと壁を叩くカンシュコフを煩げに睨みながら、キレネンコは再度「早くしろ」と促した。

 でないと―――と、僅かに首を後ろに向ける。

 その先には、ベッドに座ったまま両のほっぺたを押さえているプーチンの姿。ぽけっとした顔をしているその頬はお多福風邪にかかったように真っ赤になり、ふにふに感を増している。見ていると思わず引っ張りたくなってしまう頬だ。
 さっきまでマジックハンド越しに感じていた感触を思い出す。まさに、大福のような肌だった。むちむちとももにもにともつかない絶妙な柔らかさ。そのまま千切り取って、食べてしまいたいような。

 ついうっとりとトリップしかけたカンシュコフの背に、はっと冷たいものが流れた。
 恐る恐る、上方にある覗き窓に視線をやる。と、窓の向こうに見える半眼の赤い目が意味ありげに細められた。


        ・ ・
 代わりに、アレを食う。



 唇一つ動いていないその口元から牙が覗いたような気がして、カンシュコフの悲鳴が廊下に響き渡った。



 それから程なくして届けられた大福の山に命を救われたとも知らず、プーチンはニコニコと同属に齧り付いていた。

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