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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 前書いたコレ(海行きたい病のプーチン)の続き。

 なんとなくキレ様とレニは本質が似てる気がするんです。


 赤×緑。

 海に、やって来ました。





 本文は『続き』からどうぞ。








 ……暑い。

 凶悪なほどの日差しが肌を直に焼く。
 太陽は実に平等だ。光合成する木々にも熱されるだけの車にも、焼け付くボンネットに寄りかかるキレネンコにも。等しく、焼け付く光線浴びせかける。
 発ガン作用たっぷりの紫外線は、濃縮された放射能すら効果ない体にはさしたる影響及ぼさない。及ぼさないのだが、いかんせん、暑い。非常に、暑い。
 無表情の横顔に流れる汗はないが、それは単に発汗しにくい体質なだけであり、暑さはきちんと体感している。極東の震える寒さが嫌いなキレネンコは、暑いのも同じくらい大嫌いである。
 しかし、卵を落とせば目玉焼きが出来そうな鉄板につけた背を彼は離さない。目の前に日差し受けてもなお冷たい、大量の水があるにも拘わらず、だ。
 水―――正確には塩水。もっと適切に示すなら、海水。
 砂浜を少し進んだ先、寄せたり引いたりして境界線を変える海水の集合体。

 つまり、目の前は海だった。

 「キレネンコさーん!キレネンコさんも海、入りましょーよー!」
 「…………」
 「えぇー?なんでー?冷たくて気持ち良いですよぉー」

 バシャバシャと聴覚からも涼しさ伝わる、水と蹴戯れる音立てながら呼ぶプーチンにキレネンコは無言で首を振った。

 イヤだ。行かない。ここにいる。
 
 小さく首を二回揺らすだけで示された、強い拒否。潮風に乗ってブーイングに類似した声が届くが、それでも彼は動かない。
 何故か。理由は簡単だ。砂浜立つ彼の足元がスニーカーだからである。
 サンダル仕様のプーチンとは異なり、彼のスニーカーは海に近づいたら濡れてしまう。
 スニーカーは大変デリケートに出来ている。磨きこんだ布地に塩水がかかってたりしては目も当てられない。波打ち際に近寄るのだって危険だ。
 なのでキレネンコは清涼を得ることよりスニーカーを守ることを優先した。当然の判断だ。
 そもそも、海に寄る事事態キレネンコは反対だった。
 別に海などどうでも良い。青い水平線も光る水飛沫も、彼の胸に何ら興味呼び起こさない。それよりも海岸線をさっさと通過し、真に心の琴線掻き鳴らす新作スニーカーを手に入れてしまいたかった。
 最早それは使命だ。どんな犠牲を払ってでも果たす、最優先事項。寄り道など言語道断、誰が何と言おうと断じて認めない。
 その曲がることのない意思と進路をがくんと折って停車しただけでも、十分譲歩している。履いているスニーカーだけは、絶対に死守せねばならない。
 砦築くよう胸の前で腕組みしたキレネンコは頑として動かないまま、「冷たくて気持ち良い」らしい海と、初めて来た海に歓喜して履物どころか裾まで濡らしてはしゃいでるプーチンを見た。無理矢理進路を止めただけあって大した喜びようである。
 とりあえず広大な海原より塩水に濡れて透け見える肌へ赤い瞳定めた彼は、思った。いつ、アレは海に飽きてくれるだろうか、と。
 水着も着替えもないにも係わらず海へ一直線、突入したプーチンは砂浜から赤い瞳が送る冷めた視線に微塵も気づいていない。今彼の目に見えているのは青い海、ただそれだけなのだろう。
 わぁとかきゃぁとかむほぉとか意味不明の声上げて海に浸かるプーチンにも日光は燦々と降り注ぎ、獄中生活で白さ増した肌をひっそりと、着実に焦がしている。
 明日は日焼けで泣くこと確定だ。だが、それも仕方あるまい―――海に寄りたいなどとごねた、ヤツが悪い。
 恐らく自分が期待している以上に長く足止めを食らいそうな予感に、キレネンコははぁと溜息をついた。はぁ、全く。
 と、首を折った時。彼は、足元伏せる生き物と目が合った。

 「…………」

 ……楽しくなさそうだな。レニングラードは言う。

 ……楽しいはずなかろう。キレネンコは応える。

 ぎょろりとした両生類の目が伝える声なき声に、キレネンコも赤い瞳持って無言で返す。淡水生物である彼もまた、海反対派の一人だった。
 賛成一、反対二、棄権一で車内メンバーの多数決では海をスルーする意見が圧倒的に強かったのに、それでも停車を最終許可したキレネンコの謀反ともいえる判断を同朋である彼は特に責めない。

 「…………」

 別に、どっちでも良いし。そう言いたげに、モシャモシャ口を動かす。
 レニングラードにとって自身の意見は声高に主張するほどの重要性がない。彼にとって食事をするのに場所など関係はない。そして食べている間は、彼はどこにいても幸せなのである。
 よってコマネチを咀嚼している彼は潮風と太陽で粘液に覆われた体が侵食されるこの場所においても、大変幸福そうだった。 
 足元のレニングラードに、羨ましいことだ、とキレネンコは思った。
 物静かでマイペースを地でいく姿勢といい動くものなら何でも食す豪放なところといい、割と性格が合致するカエルが現状を満喫している事を、キレネンコは実に羨ましいと思う。ついでにどうでもいいがその口元から時折覗く黄色い物体も恐悦至極な様子であり、羨ましいを通り越して不快になる。
 キレネンコも彼らに倣い海の家でも襲撃して食料をかっぱらえられれば束の間暑さと鬱々する気分を忘れられたかもしれなかったのだが、残念ながら寂れた海岸にそれらしい屋台は見当たらない。益々、海などどうでも良い。
 愛読書であるスニーカー雑誌も防水仕様でないため取り出せない。いよいよやる事がなくなったキレネンコは腕を組んだまま、とりあえず水と戯れるプーチンを注視した。
 肌へ張り付く服というのは露出が基本の水着とはまた一味違った趣がある。これはこれで中々良いものだ、とキレネンコは思う。本人は自分の格好に全く頓着していないようだが、人目がないので好きにさせておく。

 とことん好きにさせて、満足させて。それから、引っ張っていくしかない。

 はぁ。再び口から漏れた溜息は、今度ははっきり諦めの形を成していた。
 そんな彼の忍耐を試すかのように太陽は熱を放つ。ジリジリ、ジリジリ、皮膚が焼ける音すら聞こえる。暑い。我慢の延長にある導火線が着火されそうなくらいだ。
 一体どれくらい経ったろうか―――いい加減砂浜に不穏な空気が漂い始めた頃。見計らったかのように、バシャッと水音が届いた。
 潮風に乗って届く「キレネンコさーん!」との呼び声にやれやれ、とキレネンコは思った。やっと気が済んだのか、と。
 が、すぐにそれが勘違いであった事を、彼は知らされた。
 一つだけ砂浜についた足あと辿るよう、車の方へ元ってきたプーチンは。

 「やっぱり、キレネンコさんも海、入りましょう?」
 「…………」

 気が済むどころか食い下がった。
 頭から足元までびしょ濡れになって迫るプーチン。水弾く肌も眩しい彼から、キレネンコは一歩、後ずさった。
 乾いた砂の上に浮かびあがる水玉模様。いたるところからポタポタ雫滴らせる相手は今、キレネンコにとって迷惑以外の何者でもない。

 すっかり干されてからでないと接近は拒否する。同時に、海に入るのも断固拒否だ。

 足元のスニーカーを守りつつやはり首振る強情なキレネンコに、笑顔と塩水振りまくプーチンもまた引かなかった。

 「だって折角海に来たんですよ?泳ぐのは無理でも水遊びくらいしていきましょうよ!」

 断る。

 「冷たくて気持ち良いですよー!ずっと立ってたら熱射病になっちゃいますよ」

 そんなものかからない。

 「それにね、近くで見るともっと綺麗なんです!僕、初めて見たけど海って本当に青いんですね!!」

 青かろうが赤かろうがドドメ色だろうがどうでも良い。

 「屋台とかあったらもっと良かったですけど。暑いし、海見てたらソフトクリームとかカキ氷とか食べたくなりません?」

 最早海は関係していない。だが、そんなに言うなら後で代わりに食ってやる。

 お前を、と適度に塩味がしそうな相手の言葉全てにキレネンコは首を振る。
 冷たかろうが気持ちよかろうが色が青かろうが服透かせた白い身体で誘惑してこようが、駄目なものは駄目だ。
 スニーカーは絶対に、濡らさない。
 
 「靴は脱いじゃえば良いですよ」

 漸くキレネンコの動かない理由が足元にあるのだと気づいたプーチンは説得の方向性を変えた。だが、そういう問題ではない。
 濡れるのは論外だが、肌の一部と化しているスニーカーから足を引き抜く事自体、キレネンコにとって耐え難い行為なのである。
 海に浸かるときプーチンが服も下着も脱がなかったように、キレネンコもまた、靴を履いたままでいたいのだ。そして濡らすことが許されない以上もう海に入るという選択肢はない。
 フルフル、キレネンコはここに来て一番強く首振る。彼は思った。

 何故分からない。
 人の都合を無視し、その上で嫌がることまで強要することがどれだけ相手に不快感をもたらすか。
 コイツは何故、分からない。

 だんだん上昇する苛立ちのボルテージに比例するよう、赤い瞳覆う瞼は下がっていく。

 キレネンコは待った。耐えた。
 ギラつく太陽も鬱陶しい暑さも危険に晒される大切なスニーカーも全部、寛容した。
 それでも足りないと訴える、聞き分けのない、キレネンコよりも海にすっかり魅せられてしまったプーチン。


 ―――潮騒に紛れ、ぷちん。どこかで、音がした。


 「…………」


 ……もう、いい。


 キレネンコは決心した。強く強く、決心した。


 もういい。そんなに居たいなら、居ればいい。

 いつまでも、気の済むまで、とことんずっと。一人、海で遊んでいろ。


 腹を決めてしまえば彼の行動は早い。
 黙ってボンネットへ預けていた身を起こす。くるり海側へと向けた、焦げ付く直前だった背は海水と同じ、甘さの欠片もない。
 仏の顔は三度まで、というがキレネンコは仏でもなければ神でもない。折れてやるのは一回きり、車の中で「海に寄りたい」とごねた後付け加えられた言葉に折れた、あの一回きりだ。
 置いてくついでに他の同乗者も残していく。せめてもの餞別だ。荷物が減って丁度良い。
 チラ、と足元から視線が飛んだ気がしたが、キレネンコは無視をする。
 どっちでも良いけど。自身の身の振り方など興味のないレニングラードの、ゴクン喉が嚥下する音はそう答えているようだった。仮にそう答えてなかったとしても、キレネンコにとって関係はない。暑さと憤りとで沸き立っている彼の頭を占めるのはこれから一人目指す先に在るスニーカーのことだけだ。
 運転席のドア部へキレネンコが手をかけた時、「あっ」と慌てた声が後ろから届いた。だが、今更だ。反省しても、もう遅い。冷たい塩水を被って、存分に頭を冷やせ。

 「ま、待って下さいよキレネンコさん!」
 「…………」
 「ねぇ、待って下さいってー!」
  
 無人の浜へ高い声響くと同時に、はしっと。取っ手掴む腕が、引かれた。
 太陽に炙られて熱持った肌に貼り付くような、冷たい手の感触。
 白波掻き混ぜ、掬っては投げしていた手は指先まで冷えている。海が冷たくて気持ち良いと叫んでいた意味が、少しだけ理解できた。

 「キレネンコさん」

 熱癒す温度に一瞬動き止めてしまったキレネンコを、プーチンが覗き見た。海よりも奥深い色した緑の瞳。赤い瞳を真っ直ぐ捉えた目には、海ではしゃいでいたときの興奮も置いていかれる狼狽もない。見つめられたキレネンコが思わずハッとするほど真剣な眼差しがそこにあった。
 冷たい手に加え、その目を見るとどうしてか振り払うことが出来ない。砂浜へ縫いとめられたキレネンコは、押し寄せる音を聞いた。

 浜へ押し寄せる波と、自身の胸に押し寄せ響く、声とを。彼は、聞いた。


 「僕―――キレネンコさんと一緒が、良いんです」


 それは―――それは、一度聞いた。
 ここへ降りる前、車の中で一度。聞いたのと、同じ台詞。
 「だから、だから、ね」、と続く、その言葉の後は。

 

 

 

 


 「だから―――海、一緒に入りましょう!」

 

 

 

 「…………」

 

 ねっ、良いでしょう―――言い募るプーチンの高い声が。どこか遠い、とキレネンコは思った。遠い。潮が引いていくように、遠い。
 何故か。理由は明快だ。彼の意識が一瞬、鮮明さを欠いたからである。
 真っ赤な太陽も白い砂浜も青い海も目の前でそれ自体が発光しているのではないかと思うほど明るい、にっこりと微笑み浮かべる緑の瞳も。一瞬全て、色が消えた。
 ぐらり。筋肉発達した足で立つ体が傾いだ気すらする。ひょっとしてこれが熱中症というやつだろうか。容赦ない日差しはいつの間にか肌を越え肉を潜り揺らがないことにかけて自負している精神すら蝕んだのか。キレネンコは、思う。
 かろうじて砂浜に踏みとどまったキレネンコの腕を、「ほら、行きましょう!」とプーチンは引っ張った。ぐいぐい手を引く彼が示す進路は当然、冷たく青い、海の方角。
 塩分濃い、スニーカーを劣化させてしまう場所。興味ないどころか憎しみまで抱いていた、青い色。プーチンがどうしてもとせがむ、その場所にキレネンコは。

 キレネンコは。

 「…………」


 ドアから離れた手を目撃した目が、ぎょろりと赤い瞳を見た。

 ……行くのか。レニングラードは問う。

 行くしかなかろう。キレネンコは返す。

 

 行くしかないだろう―――あんな風に、言われてしまっては。

 

 「…………」

 じゃあ、行ってらっしゃい。
 げぷ、と満腹の息を漏らすレニングラードに今度は返事をせず、キレネンコは僅かに身をかがめた。
 履きなれたスニーカーを脱ぐ瞬間彼が得たのは、開放感ではなく納まりの悪さ。優しく抱擁する布があってこそ、彼は心の安寧を得る。居心地悪いような、もっというと自分の身を切り捨てるような。そんな悲痛な感覚に全身へ抵抗が走るが、それを無理矢理ねじ伏せ踵を引き抜く。
 土踏まず、拇指、五本に割れた爪先まで。全て白日に晒された素足が、砂の上に降りた。

 ……熱い。

 キレネンコ達が来るより前から太陽に焼かれていた砂は、先程までもたれていた車以上に熱い。ジュッ、と肉を焼くような、そんな音が聞こえてもおかしくはない。
 普通なら飛び上がって走り出しそうな場所に左右の足を乗せた彼は、遠くへ―――潮の被害にあわないよう、なるべく海から遠くへとスニーカーを置く。
 きちんと踵を揃えられた一足のスニーカー。まるで、脱皮だ。抜け殻と化した大切なスニーカーを見下ろし、彼は思った。
 胸へぐっと押し寄せてくるのは寂寥だろうか。なんともいえない物悲しい気持ちだ。
 が、滅多にない感傷に浸るキレネンコを、腕引くプーチンは待ってくれない。つい先程まで冷たいと感じていた手はすっかりキレネンコの腕と同じ体温で、足の裏焼かれるキレネンコ以上に冷たい海へと駆け出したがっているのが伝わってくる。
 涼求めるプーチンが浸かりたいのは感傷ではなく海なのだ。その心は、波打つ青一色に染まっているに違いない。
 そうして青い海を求めながら、キレネンコの赤い瞳をプーチンは覗くのだ。

 「…………」

 二度ばかり振った首に意味はない。はぁ。出そうになった溜息を彼はぐっと飲み込んだ。
 頭上には相変わらずの照りつける太陽。足元には阻むもののない灼熱の砂。暑いし、熱い。人並みに、神経は生きている。
 暑さと熱さの狭間に立ったキレネンコは、一歩、目的地へ向かって足を踏み出す。

 目指すは、海。そういうことに、なっている。

 裸足の足裏に感じる、ざらりとした粒子の感触。熱と違和感を踏みつけるよう、青色へ続く小さな軌跡を彼は追う。

 


 白い砂浜へ残るのは、足あと、ふたつだけ。
 

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