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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 ぼんやりしていたらあと3分で子供の日が終わってしまう……!
 というわけで、とりあえず投下しておきます。

 赤×緑。
 監獄式端午の節句。



 本文は『続き』からどうぞ。


 カラッと扉の小窓を開いたカンシュコフは部屋の様子をキョロキョロ探ると、目的の相手へ視点を定めた。

 「……541番。ちょっと」
 「ほ?」

 今日も元気にコサックを踊っていたプーチンへ「こっち来い」とカンシュコフが手招きをする。人目を憚るように―――といってもここに居るのはカンシュコフ本人とプーチンともう一人寡黙な囚人だけなのだが―――カンシュコフの声は潜められている。てててっと扉へと駆け寄ったプーチンは、何だかコソコソしているカンシュコフを不思議に思うでもなく、普通に声をかけた。

 「カンシュコフさん、どうかしたんですか?」
 「しーっ!馬鹿、でかい声出すな。……ちょっとな、手、出せ」
 「手?」

 なんだろう?と思いつつ、プーチンは言われたとおり素直に手を差し出す。上向きに差し出された小さな掌にカンシュコフは一つ頷くと、扉へマジックハンドを差し込んだ。
 ぽふっとハンドの先が掴む物を押し付けられたプーチンの口が、わぁっ!と歓声を上げた。

 「わーっ!柏餅だぁ!」

 キラキラ瞳を輝く瞳の前には、青々とした葉っぱで包まれた小さな菓子が載っている。喜びの声を上げるその口元は気も早く涎がじゅるりと滲んでいた。
 感激も顕に顔を綻ばせているプーチンに、扉の向こうでカンシュコフが釣られたように笑う。

 「どっかの国では今日それを食べる習慣があるらしいぞ」
 「そうなんですか?」
 「ああ。生まれた子供が男だったら、大きく健康に成長しますようにって祝う日なんだと」

 だからお前もそれ食って成長しろよー、と明らかな嫌味をニタニタ笑いで言われ、プーチンの眉がハの字になる。ぷうっと頬を膨らますと、彼は必死に反論を試みた。

 「僕、子供じゃないですよぉー」
 「見た目ガキだろ。しかもチビだし」
 「うぅー、チビじゃないですもん!……あれ、でもおやつの時間じゃないですよ?」
 「……それは、まぁ、あれだ」

 小窓から目を逸らすとカンシュコフは「特別だ」と頬を掻いた。
 その『特別』の意味は時間外の食料配給の事かどこかの国で食べられる習慣に合わせた事なのか、はたまた二人居る囚人の中でプーチンだけに渡した事に対してなのか―――見上げてくる緑の瞳にもごもごと口ごもると、結局説明をしないまま「いいから食っとけ」と早口に言う。
 どこか慌てた様子の相手にほけっとしていたプーチンは、それでも柏餅を手に微笑んだ。

 「あ―――はい。ありがとうございます、カンシュコフさん!」

 にっこりと笑って告げられる礼に、若干赤くなった顔が閉められた小窓の向こうへと隠れた。

 


 物言わなくなった扉から視線を手の上に移すと、プーチンはえへへっと上機嫌に笑った。
 理由は良く解らないけれど、良い物を貰った。
 胸の前に持ち上げた手の上からは、柏の葉っぱが立てる青い草葉の香りが漂う。貧寒とした監獄内では嗅ぐことができない、新緑の匂いだ。丁度外は若葉の季節―――なんとも爽やかな香りだった。
 その葉先をぺろっと捲ると、中から白くつるりとしたものが覗く。突けばぷにょんと弾力を伝えるだろうそれにさらに鼻を近づけると、葉の青い匂いに混じって甘く柔らかな匂いが胸を満たした。

 どちらも大好きな、監獄内ではとんと縁遠くなった匂い。

 これを前に、幸せにならないはずがない。
 今すぐにも齧りつきたい、という衝動をなんとか我慢して、彼は部屋のベッドへと駆け寄る―――当然、向かったのは自分の方のベッドではなく、雑誌を広げて寝転んでいる同居人の方のだ。
 ぷらぷら足を揺らして読書中のキレネンコへ、プーチンは貰ったたった一つの柏餅を掲げ示した。

 「キレネンコさん、柏餅頂いたから食べましょう!」
 「……………」

 ゆるりと雑誌の向こうから赤い瞳が持ち上がる。感情の宿らない目は、緑の囚人服を着てニコニコとしているプーチンと緑の葉に包まれた柏餅とを認識しても特に変化がない。思いがけず得た甘味への喜びも、一人こっそり食べずに分けてくれる心優しい同室者への感動もない。
 ただ―――無感動の赤い瞳はよくよく覗き込むとじぃっと目の前の緑色二つを見て何か思うように瞬いた。

 その視線に気付くことなく、プーチンは手の中の餅菓子をさてどうやって半分にしようか思案した。
 スパッと切ろうにも、包丁もナイフも房には置いていない。可能な折半方法は手で千切るしかないのだが、よく伸びる餅は引っ張ってもにゅーんと伸びるだけでなかなか切れないだろう。下手をしたら、中の餡が崩れ落ちてしまう。

 それでもプーチンに一人で柏餅を食べようという発想は―――与えたカンシュコフが知ったらショックを受けるだろうが―――生まれない。

 美味しいものは誰かと分け合って食べると、もっと美味しくなる。腹を満たす量は少なくなっても、その思いは胸を一杯にまで満たしてくれる。例え配分者が「美味しいですね」と話を振っても相槌を返さないような相手であっても、だ。

 うーん、と考えたものの妙案浮かばないプーチンへ、意外なことに先に口を開いたのはキレネンコだった。

 「…………分けなくて良い」
 「え?」
 「全部、食べろ」

 自分は要らない―――と振られる赤髪に、プーチンが慌てたように止める。

 「で、でも、キレネンコさんも甘い物好きですよね?」

 長身で鍛えた体躯と男性的な容貌は無表情の上を走る縫合痕も相まって女子供の好む甘い食べ物を口にするタイプには見えないが、実際は彼が紅茶にも砂糖を入れるほどに甘党であることをプーチンは熟知している。
 ケーキは勿論クッキーもチョコレートも饅頭も人形焼も、甘味なら―――甘味でなくてもだが―――何でも食べる。柏餅だって、嫌いではないはずだ。
 疑問を口にするプーチンに、けれどキレネンコは頑として首を振る。言い募ろうとする相手を止めるのに、彼はボソリと言った。

 「……俺は、別の物を食べる」

 だから食え。

 そう、強い意思を乗せて見つめる赤色に、プーチンも流石に無理強いは出来ない。良いのかなぁとは思いつつも、促されるような視線に従って柏餅の葉を剥ぐ。
 緑の衣は抵抗することなく外れ、中から白い柔らかな餅が出てくる。丸々一つの状態のそれを手で千切ることなく、プーチンは思い切って齧りついた。
 はむり、と歯を立てると、少しばかり抵抗するような弾力がある。むにっとするそれを歯で押さえたまま手で引っ張り、にゅーんと伸びた所を噛み切る。
 ―――途端、口の中に広がる、甘い甘い餡の味。
 顎を上下させると餅が歯をムニムニと柔らかく受け止め、舌の上を上品な小豆の味が覆う。包み込んだ葉っぱの濃い匂いが移っているのか、草葉の香りが少し鼻へと抜けた。

 感想は言うまでもない―――美味、だった。

 もむもむと口元を動かすプーチンの顔が恍惚とした表情を帯びる。
 悪いなぁと思っていたのもどこへやら、柏餅は二口三口とどんどん彼の口へ消えていく。その度柔らかな餅のような頬が、ふにゃりと締まりなく緩んだ。
 幸せそのものを噛み締めているような、見ていると思わず一口強請ってしまいたくなるような、そんな表情を―――じっと、真向かいで、赤い瞳が観察していた。


 ―――安心しろ。後で、代わりの物は食べる。

 餅のように柔らかくて、餡よりもずっと甘い物を。
 どんな甘味より、大好物である物を。



 だから心置きなく、大きく健やかに育て―――プーチン。


 緑の衣を剥いでその内にある白いものへがぶりと齧りつく瞬間まで―――あともう、一口分。


―――――
 どこを育てる気なのか……

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