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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 数ヶ月間会話をしてくれなかったお兄ちゃんと、最近漸く挨拶に返事を返してくれるまで回復した今日この頃。

 久々に投じられた言葉は、一時から15キロほど太った顔を見て「ご飯、美味しい?」でした。


 ……ああうん、美味しいです。


 一度食べ癖ついたら直らなくなったんです。どうしようもないです。
 良いです、真ん丸になった顔でも話題のきっかけになるならそれで。
 ……でも流石に平均体重オーバーは厳しいか……


 お食事ネタ(?)2弾。双子+緑。やっぱり、ぱられる。
 タイトルは俵万智さんの短歌より。(7月6日ではありませんが……)



 本文は『続き』からどうぞ。


 


 生物が『食事をとる』目的とは、生命維持に必要な栄養素を摂取するためである。極論を言えば食物を食べなくても点滴や投薬で事足りる。
 にも係わらず人があえて食材に手を加えて口径摂取する労力を費やすのは、食事という行為そのものに心因的な価値が付加されているからだ。
 それは視覚や嗅覚、味覚から得る直接的な満足を得ることであったり、食す場をコミュニケーションツールとして利用するためであったりと種類はさまざまであるが、要約すると『皆揃って何でも美味しく食べましょう』となる。
 斯様にして食卓を預かる主婦は、少しでも栄養のある物を美味しく食べてもらうため日々努力している。その苦労を食べる側も理解せねばなるまい。よって。

 「…………」
 「…………」
 
 フォークとナイフを握ったまま、赤い二対の目がテーブルの上の皿を見た。
 殆ど片付いた夕飯の席、サラダ用の大皿に乗った、あと二欠片を食せば今夜も完食―――和やかであったかは微妙に疑問な食卓も、平穏無事に「ご馳走様でした」と閉められる。
 その皿の上に乗る物体は、二人にとって久々に目にする物体だ。

 ずっと食事には自由を言える立場だったので、作り手に使うなと言葉と腕力で指示してすっかり世界から抹消していた物体―――魚の形をしていない、魚。

 赤と白の二次加工品からは心なしか海の香りがしてくるような気がして、それが余計気持ちを萎えさせた。
 若干皿から距離をとるように引いた顔が、自然はす向かいに向く。
 眉間に皺を二三本、きっと鏡に映しても同じ絵が映るだろう顔と目を合わせれば、向こうの心情はありありと伝わってくる。普段なら冷笑の一つでも浴びせるところなのだが、現在心まで鏡写しである身にその余裕はない。
 相手に聞こえない程度、本当に小さく漏らした溜息―――同時に吐かれたそれは相乗効果で音を増し、両者の耳へと届いてしまった―――にもう一本皺を増やしながら、無意識に振った首が揃って台所へ向いた。

 壁の向こうから聞こえる、上機嫌な鼻歌。
 食後のお茶を準備しに行ったプーチンはきっと、帰ってきた時にはもうテーブルの皿全てが片付いていると思っているのだろう。

 どんな料理を出してもどれだけの量を用意しても、いつも空になる皿に作り手である彼は大変喜ぶ。最近はそれに合わせるように料理の腕も磨きをかけており、食べる側のキレネンコとキルネンコも悪くない事だと思っている。毒薬でも飲める体だが、味覚が鈍重なわけではない。
 口では特に感想を述べないまま、もっもっもっ、と頬張る―――ニコニコと笑顔を浮かべて緑の瞳が眺めるその口元を止めて、赤い瞳が再度皿を見た。
 目を逸らしている間に食材がなくなっている、という事は当然だがない。
 緑の葉っぱも嫌わずもしゃもしゃ食べた皿へ、相変わらず鎮座している二切れのカマボコに二人の手がどちらからともなく動いた。


 ―――すっ。

 どうぞ召し上がってください。
 
 ―――すっ。
 
  いえいえ、そちらこそ遠慮せずご賞味なさい。

 ―――すっ。

 お構いなく、食べて下さって結構ですから。

 ―――すっ。

 そうおっしゃらず、ぱくっと一口でどうぞ。

 ―――すっ。

 ……いいから黙って食え。

 ―――すっ。

 ……お前がな。


 「…………」
 「…………」

 テーブルの上を行ったり来たりしていた皿が、真ん中で止まった。押してもガチリ動かなくなった皿の端を、それでもどちらも離さない。
 苦虫を噛んだように顰められた顔が向かいの顔を睨んだ。

 「さっさと片せ」
 「煩い。言った奴がやれ」

 グググッ、と。左右から圧力を加えられる皿は、いつパリンッと割れてもおかしくない。低い声のやり取りを交わす中、出来るなら皿ではなく向かいの喉仏を押したい、と互いを睨む赤眼が訴えている。
 本来なら心の篭った手料理を食べて幸福感に満ちる瞬間だというのに、食べ残った物体と向き合う相手とでぶち壊しになってしまった。
 しかし、このまま皿が片付かなければ、余計後味が悪くなる―――殺気立った鋭い目より、憂いを帯びて伏せられる丸い目の方が何故か身に刺さる。丈夫な胃が消化不良を起こしてしまう事態は、やはり回避したい。
 台所からはほのかにお茶の香りが漂ってくる。プーチンがテーブルに戻ってくるまで、時間はあまり残っていない。これ以上の持久戦は不可能だ。


 四の五の言わず、腹を括るしかない―――


 決心を固める呼吸を、一つ。

 ギュッ、と力を増して握ったフォークが、カマボコへぐさりと突き刺さった。

 

 

 ふんふふん、と鼻歌交じりに三客分のカップを運ぶプーチンは、至ってご機嫌だった。
 元々料理をするのは嫌いではない。食べる事自体も好きなので自作して食べるというサイクルは非常に理に適っているし、自分の食べたい物を食べる事が出来るというのも利点である。
 そんなただの趣味程度だった料理も近頃力を入れて取り組んでいる。自分以外の食べてくれる人が、出来たからだ。
 ちょっと味が濃くなった時や焦がしてしまった時、自分だけなら仕方ないで済ませていたが人の口に入る以上そうはいかない。食べてもらう以上、美味しい物でなければ。
 だが、そのプレッシャーにも似た責任は決して重苦しいものではなく、逆に作る楽しみを増してくれた。

 「美味しい」と直接言葉をくれる事は少ないものの、出した料理は何時も綺麗に平らげてくれる。綺麗に空になった皿を下げる瞬間は、料理人冥利に尽きる。
 時々失敗した時ですら、黙って食べてくれるあの二人は本当に優しい―――もっもっもっ、と規則的に動かされる口を見ていると、次は何を作ろうか、どんな物が喜んでもらえるか、と俄然頑張って料理をする気が起きる。

 なので、ちょっと弾む会話の欠けた、それでも和気藹々とした食卓へ弾む足取りで戻った彼は、ぱちくり目を瞬いた。

 「ほ?」

 若干傾げられた首に、席へついているキレネンコとキルネンコから反応は返らない―――首を後ろへ背けあっている二人に、そんな余裕は、ない。
 赤い瞳を声のする方へと飛ばせば、確実に口元へ突きつけられているフォークが襲撃する。先端に刺さったカマボコは顔を逸らしていても魚臭を伝えてき、胃の中身をせり上げるような不快感を齎す。口の中へ突っ込まれたら確実に吐くだろう。テーブルを汚すようなマネをしては元も子もない。

 だから早く食べろ―――自身の顔は遠くにやりながら、胸倉を掴んだ相手に食品を食べさせようとフォークを押し付けあう鏡映しな光景を見て。
 ぱちぱちっ、と瞬いた緑の瞳は、ああ!と納得したように目を輝かせた。

 「二人とも仲が良いですねー」
 「…………」
 「…………」
 
 にこにこ、と。トレーを持っていなければぽんと手を打ち鳴らしていただろうプーチンのやたら嬉しそうな声に、傷跡走る頬がそれぞれピクリ引きつった。


 ―――一体何を、どこをどう穿って見れば、そう思えるのか。


 詰問したいのは山々だが、口を開ける事の出来ない。
 そんな二人に代わって、食卓を取り巻く殺伐とした空気に気付いていないプーチンはほにゃり頬を緩めた。


 「それって、『あーんv』ってやつですよね?良いなぁ、そういう事兄弟で出来るのって!」


 「…………!」
 「…………!」


 核弾頭、投下。
 辛うじて平和を保っていた食卓を崩壊させたのは、他でもない彼自身だった。
 最も―――それを適切に指摘できる状態の者は、この席にいない。
 
 『あーん』どころか、強く引き結んだ口の向こう。ゾゾゾゾゾッ!と走った寒気が声にならない悲鳴を発せさせた。

 ビシッと全身に浮き出た鳥肌は滅多に立つものではない―――赤い瞳を見開いて硬直している姿を見て尚「素敵だなぁ」と言う相手は、ポロリ手から抜けたフォークを見咎める様子はない。
 床に落ちてしまった嫌いな食べ物は、確かに口にせずに済んだ。フォークを拾い上げ、食器を下げる小さな主夫の機嫌もすこぶる良い。

 が―――カマボコを口にした時以上に猛烈な吐き気に揃って見舞われた二人は、到底食後のお茶を飲める状態ではなかった。


 必要なのは、飲みすぎ食べすぎでなくても効く胃薬―――今日はそんな、サラダ記念日。



―――
 多分、使われていたのはサラダ用カニカマ。
 

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