結局のところまとまらなかったので、短いです……(普段が小話なのに無駄に長いのか……?)
ちなみにタイトルとB’●の曲は関係ありません。
赤×緑。
檻の中でのクリスマス。
本文は『続き』からどうぞ。
一度目の冬は、寒かった。
二度目の冬は、寂しかった。
そうして迎えた、三度目の冬は―――
「―――あ、雪だぁ」
ひらり、鉄格子の隙間から入り込んできた結晶を見止める。
雪が舞う、ということはすなわち外はとても寒く、入り込む、ということは室内の温度は外と変わらない、凍てつく冷気に支配されているということに他ならない。
それでも、身の回りは温い―――暖房設備の一切を省かれた檻の中であっても、唯一の熱源である体を合わせれば一晩凍えず過ごせる。
背中を受け止めてくれるキレネンコへ、プーチンもこの時期ばかりは一切の遠慮なくもたれかかる。隙間ができればそれだけお互いが寒いからだ。
身を寄せ合う、という陰気な言葉が意味する通りの現状を、けれどプーチンは嘆かない。年に一度の聖夜に起きる奇跡がなくても、いいと思う。
思っているよりここは、過ごしやすい場所だと知ったから。
マットは堅いけど、ベッドもついてるし、(足を延ばせばぐっすり眠れる)
ボロボロの囚人服だけど、上下セットで揃えてもらえるし、(サンダルもあるから足の裏冷たくない)
ご馳走じゃないけど、三食きちんとご飯を食べさせてもらえる。(それに今日は看守さんがケーキを差し入れてくれた!)
いつもならない皿へ乗った、ケーキの橋っこ―――多分それは祝日の今日もやっぱり休みなしで働く彼の給食へついてたのを、わざわざ残してくれたんだろう―――を房内へ押し込んだ本人の、ブラウンの瞳は結局のぞき窓から見えなかったのだけれど。扉に向かって力いっぱい叫んだお礼の言葉は、ちゃんと伝わったはず。
貰った小さなケーキは半分にすると本当にたったの一口分の大きさになってしまったけれど、一人で食べるよりずっと胸を膨らませてくれる。ボソボソしたスポンジも、甘さの少ないクリームも、二人向かい合って食べると不思議と美味しく感じる。
ちかちか光るツリーはないけど、空には星が一杯散らばっているし、(空気が澄んでいるからとくにはっきり見える)
大きな靴下はないけど、どんな願い事でも叶う夢が見られるし、(身長が天井まで伸びたりとか、あと空だって飛べちゃう)
サンタのおじさんは来ないけど、傍にはずっと暖めてくれる相手が居る。(そういえば彼の衣装も赤色だ!)
ならやっぱり、赤い彼には白いひげが必要なのかなぁ。とこっそり思い浮かべてみたプーチンの背へ、のしっと重量がかかる。
「ふぉっ!お、重い~!」
「…………」
「キレネンコさん、重いです重いです潰れるー!」
逆は容易いが肩幅のあるキレネンコの方が凭れかかってくるのは、体格的にちょっと、かなり、きついものがある。
ぐいぐい押されるまま沈む上体にプーチンが手足をばたつかせる。重い、というその言葉がまた心外だったのか益々身を預けてくるキレネンコの下で悲鳴を上げていたプーチンはけれど浮かぶ笑みは崩せずにいた。
負ぶう体は重いけど、はみ出ない背中はあったかいし、(とくんとくんと心臓の響く音まで聞こえてくる)
畳まれる体は窮屈だけど、肩から座る膝までくっついていられるし、(降りかかる呼吸さえぴったり近い)
後ろの顔は見えないけど、伝わってくる空気はとても柔らかい。(それってきっと、お互い様!)
乗りかかった体からは余計な力が入っておらず、触れる事を拒む意思見せない。言葉には表さないけれど、全ての信頼を置いてその身を寄せてくれている。
―――ここまでくるのに、三年かかった。
一年目は、初めて経験する冷え込みと配給の遅れでひもじいのとで、一人身を抱えて震え上がっていた。
二年目は、やっと見てもらえだした顔を覗き込んで祝いの言葉を伝えたら、「くだらない」と目を逸らされた。
そうして迎えた、三年目。
少しだけ緩められた圧迫に、また体勢を戻す。やはり被さられるより、小さなプーチンが抱えられているほうがお互いしっくりくる。さしずめ、湯たんぽか。
体温の高さを遺憾なく発揮しているプーチンは微笑を浮かべたまま、首を後ろに倒した。
ごく至近距離から、キレネンコの顔を覗き込めばすぐかち合う赤い瞳―――ああ、そうだ。
プレゼントは貰えないけど、ここには何より、綺麗な宝石がある。(手を伸ばせばいつでも届く、二つの輝石!)
同じ二つの目で―――翡翠の色した瞳で、外されない双眸を見たプーチンは笑う。
「С Рождеством、キレネンコさん!」
「……С Рождеством」
三度目を迎えた、二人きりのクリスマス。
奇跡の起きない聖夜に、心からの祝福を。
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本当は、●'zの曲でやりたかったんです……orz
・С Рождеством…メリークリスマス