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監獄兎中心期間限定サイトの日記という名の掃溜
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 お礼文に混ぜるのは微妙だったので、こちらだけに記載。
 こちらもお持ち帰り自由にしておりますので、宜しければどうぞ。



 双子+緑


 その場所が持つ、意味。





 本文は『続き』からどうぞ。


永訣の花

 


 そこには確かに、想いがあった、

 

 


 「無意味だと言ったんだがな」

 何をしても意味などない、と。薄く笑みを浮かべ、誰に言い聞かせるでなく彼は言った。

 「死者に知覚は宿らない。残るのは只の物だ。肉と骨。腐り朽ちていくだけの亡骸―――死ねば、そこで終わりだ」
 「……だから、意味がないんですか?」
 「哀悼も追憶も、全て生きてる人間のために存在する。自己満足に浸ったところで、何が得られる?」

 はっきりと言い切る。口にした問いかけの答えは恐らく、何もない、が正解だ。


 では何故、この場所はこんなに綺麗なのか―――


 広い庭の一角、ほんの隅の方ではあるが芝から雑木まで丹念に手入れが行き届いている。
 静謐で、清廉で、寧静で。何より、空気がとても穏やかだ。踏み込めば時すら留めてしまう、柔らかく満ち満ちた場所。
 本当に意味がないのだとしたら、こんな澄んだ空間を作り上げる事なんて出来はしない。『誰か』の、想いが込もっていなければ。

 「自己満足で構わない、と言ってきた。だから好きにさせたまでだ」

 彼としては、それで話は終わったのだ。気分を害しさえしない。訴えはどこまでも無意味で、興味のない物に過ぎなかったから。
 そして、一人、二人。赦された人目につかない狭い場所へ花を添え、水を撒き、石を清め。毎日毎日、身を潜めるようにして訪れた。
 堂々と出来なかったのは彼に対する配慮だろう。決して残った彼を非難しているわけではない。他方に肩入れしているわけでもない。
 表に出さない彼が、本当は誰よりも一番悼んでいるのだと。触れてはならないのだと。暗黙に諒解して、己に言い聞かせる。


 これは、自己満足だ。

 失った事に対する、哀悼の。忘れがたい事への、追憶の。


 慕っていた、
 敬っていた、
 憧れていた、
 崇めていた、
 愛していた、


 代え難い存在が居なくなった、自分自身を慰める儀式。

 

 

 例え―――立てられた墓標の下には、何もない事を知っていても。

 


 だから余計、この場所は居心地良いのだろう。
 残った者が良かれ、と思って築く場所だから。自分達のために、誠心尽くす場所だから。
 死者のためではなく、生ける者が。心穏やかで居られるように祈り捧げる場所だから。

 

 

 「でも、それだけ皆―――好きだったんだと思います」

 

 

 想っていたからこそ、哀しいのだ。大切だからこそ、残しておきたいのだ。祈らずには、いられないのだ。
 かの人へ届こうと届くまいと。器であった肉体がこの地へなかろうと。
 二度と逢うことの叶わぬその御霊が、安らかであらんと―――願わずには、いられないのだ。

 


 鼻で嗤う音が届いた。

 「随分と都合の良い話だな」

 自分勝手なご都合主義だ。自然の摂理もあるがまま認められない、弱者の空論だと。鋭く指摘する。
 反駁出来ないでいると彼はもう一度嗤い、片足を振った。コツン、と靴先の触れた石が軽い音を立てる。

 「あっ、」
 「ただの石だ」

 慌ても騒ぎもせず、冷静に言ってのける。そう、彼にすれば単なる石なのだ。石は石、人は人。死人から抜け出た魂が別の固体である碑に宿るなど、妄想だ。否、そもそも魂という存在自体あやふやな、生者の願望が生み出した幻に過ぎない。
 実体持たない物へ仮初として据えた標を蹴ろうが踏もうが、何ら影響与えない。暗にそう説いている。
 石の傍らには一束の花束が置かれていた。此処へは初めて来る。そう言った、彼が置いた花だ。

 赤い―――燃え盛る業火のような、紅。彼岸の岸辺を彩る花。

 死人花の別称を持つその花を彼が手向けとして選んだ理由は分からない。ただ、華やかな中に哀切を感じさせる印象のあった花は、どうしてか、とても自然に美しいと思えた。
 彼が置く前にも、何種類かの花が並べられていた。そうやって絶えず枯らすことなく、ずっと。失った日から今日まで続けられてきたのだろう。

 

 無意味かもしれない。自己満足かもしれない。哀しみと決別し、自身救われんとする欺瞞に満ちた行為なのかもしれない。

 


 そうだとしても―――此処に集う『想い』は。何よりも確かな、真実。


 

 ふと、上げた視線が赤い瞳と重なった。

 「……お前も、そうか」
 「はい」

 そして、自分も、きっと。立場同じであれば、祈り願っただろうから。
 はっきりと頷く。自己満足を是とした自分を、彼は呆れもしなければ嘲笑もしなかった。ほんの少しだけ、口角を上げて。薄っすらと、緋の色を細くした。

 

 

 

 

 「だ、そうだ―――死人は大人しく土に還ったらどうだ」

 

 

 


 「…………」
 「き、キルネンコさん、それはちょっと……」

 死人、と不穏当な形容に慌てて振り返れば、評された当人は激しく柳眉を顰めている。
 此処に足を踏み入れた時はなかった表情は、勝手に存在を淘汰されていた事ではなく、声を掛けられたそれ一点に対して不快感を覚えているらしい。突き刺さりそうなほど鋭い視線を同じ顔した相手へくれる。
 ややあって、キレネンコは一歩、前に出た。
 ずっと仁王立ちで不動の姿勢見せていた背中が、一歩二歩、大股で歩く。
 程なく距離をつめ、自分の墓標に向かい合った彼は大きく足を上げ―――蹴った。

 恐ろしい正確さで真っ二つに割れた石へ驚き目を見開く、その間に更にもう一発。四分割。八等分。三十二小片。供えられた花も巻き込み、蹴って、蹴って、蹴って、蹴る。

 「あー、あー、あーー~」
 
 見る見るうちに碑は砕け、粉々になり、石から礫へ、礫から砂利へと変貌し。踏んでも愛用の靴裏に傷がつかないまでサラサラな真砂土状態にしてから、漸く足を止める。
 もう墓の跡形もない。すぐさま取り巻く空気が変わるわけではないが、この場所を作り上げていた根幹がなくなった以上いずれ霧散しよう。
 勿体無い、と言うのはおかしいし、罰当たりな、と言うにもそもそも建てられている本人がやっているのだから構わないのかもしれないし。言いあぐねているプーチンに代わって、キレネンコがボソッと言った。

 「くだらねぇ」

 簡潔な一言だ。下らない。碑石も、飾花も、弔意も、此処も。此処に訪れる誰も彼も。吐き捨てるほど、下らない。

 無意味を通り越し馬鹿げている。拵えた『誰か』の気が知れない。キレネンコには分からない―――生きて、いるから。

 死ねば、そこで終わりだ。飾り立てたところで死者は分かりもしない。存在もない物に対してどうこうする暇があるのなら、生きている者はその時間を己の生のために使うべきだ。無言のキレネンコの主張に、間髪入れず水が注される。

 「遠慮するな。埋める手伝いぐらいはしてやる」
 「…………」
 「おおおっ落ち着いてキレネンコさん!スコップは上に向けるものじゃないです!」

 先手必勝とばかりに近くに掛けてあった整地用スコップを振りかざし、ゆらり幽鬼漂わせる腕にプーチンがしがみつく。絶対確実に、地面ではない所へ穴が開く。更地になったばかりの場所へ早速違う名前の刻まれた墓標が立つなんて不吉過ぎる。
 ぶら下がるプーチンの必死さが伝わってか、それとも腕がだるくなってか、キレネンコは一つ鼻を鳴らすと手の物を投げ捨て、踵を返す。スタスタ、迷いない足取りで進む後姿はちゃんと出口の方角へ向かっている。何年離れていても感覚で覚えているのだろう。
 置いていかれたプーチンは類似した二つの顔を交互に見ていたが、最終的に機嫌を損ねている方を何とかせねばと考えたのか駆け出した。「待って、待ってー」と遠くなる背中に追い縋ろうとするその努力を最大限まで発揮すればひょっとしたらうまく取り成せるかもしれない。
 そして、残った彼は。綺麗さっぱり何も残らなくなった場所に落ちる、靴跡だらけの赤い花を見。


 やはり、笑った。



 (だから無意味だと言ったろう?)









 

あの日に別れを、今日に 再会




 
+++
 本当は彼岸花に『別れ』の花言葉はありません…
 イメージ先行という事で…ちょっと、ズルしました。

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